SUMIDA MODERN

REAL INTENTION

僕らが"すみだ"を選ぶワケ

墨田区だからこそできる
インディペンデントなものづくり

Text / Yuriko Kobayashi

2021.8.20

10YC

後 由輝 下田 将太

「着る人も作る人も豊かにする、未来のためのものづくり」の実現を目指し、2017 年に創業したウェアブランド。製造委託先の工場と直接取り引きし、中間マージンを除くことで品質がよく、長く着続けられる製品を提供。各工場に適正な工賃を支払い、ものづくりの現場に利益を還元すると同時に、自社のホームページ上ですべての製造工程における原価率の内訳を公表するなど、持続可能なものづくりのサイクルを構築している。

下田:10YC〉は僕と後くんを含めて4人で展開しているアパレルブランドです。立ち上げたのは2017 年で、僕と後くんは大手アパレル会社の同僚でした。起業したきっかけは大量生産・大量消費というアパレル業界のあり方に疑問を持ったこと。あるとき友人が1万円近い値段で買ったT シャツを持ってきて、「1回洗っただけでヨレヨレになっちゃったんだけど、お前の業界、どういう仕事してんの?」って言われたんです。

その日以来、自分の仕事に違和感を覚えるようになって。例えば自分が苦労して納品した服が翌週にはもうセール品になって叩き売られていたり、それでも売れ残って廃棄されていたり。と思えば、すぐに新しい服をつくってまた売って。値引きすることを織り込んで決められる定価も、何なんだろう?って。

〈10YC〉=「10 Years Clothing」。ブランドのファンのなかには1年目の服は「1YC」、2年目は「2YC」と呼び、「長く大切に着る」というブランドの姿勢に共感する人も多い。リペアや染め直しのサービスもあり、着るほどに愛着が増す。

後:それで「自分たちのつくりたい服をつくってみよう」ということになったんです。質が高くて丈夫で、着心地もいい服があったらいいよね、と。それをつくるための方法を探して、全国の紡績や織り、編み、裁断、縫製、染色など、服づくりにまつわる製造業者を訪ね、実際に現場を見て回ることにしたんです。当時は起業なんて考えていなくて、まあ旅行を兼ねて行ってみようよって感じで。

下田:その過程で、ものづくりに並々ならぬ想いを持ったつくり手にたくさん出会って、これは伝えていかねば!と。それでクラウドファンディングでプロジェクトを公開したら思った以上に反応がよくて、支援の輪が広がっていきました。最初は自分たちが面白いことをできたらいいと思っていたのですが、多くの人が共感してくれていると分かって起業を決めました。

〈10YC〉というブランド名は「10 Years Clothing」の略で、10 年着続けたいと思える服という意味を込めました。立ち上げ当時も今も実店舗を持たないで自社EC を使って販売していますが、事務所は墨田区に置いてます。

スウェットは着心地と耐久性を両立できる吊り編み。大量生産に向かないため日本では衰退しつつあるが、技術を継承する工場を探して協働している。

後:僕は和歌山出身で、最初は渋谷区でオフィスを間借りしていたんですけど、ちゃんとした事務所がほしいよねってことになって。墨田区に移ってきたのは、2018 年だったかな。

下田:きっかけは前の会社に勤めていたときに参加したセミナーで、そのときに墨田区で縫製工場をやっている小倉メリヤス製造所の方と知り合いになったんです。相談したら、墨田区の色々な人を紹介してくれて、この物件も見つけてもらったり。あとは墨田区に新規事業者向けの家賃補助制度があることも教えてもらいました。3年間、家賃の半分を区が補助してくれるっていう。

後:あれは大きかった。

下田:資金繰りに関しても地元の信用組合さんが親身になってくださって。起業してすぐはなかなか服が売れないということもありましたけど、区の方や、地域のみなさんのサポートがあったおかげで、立ち上げの苦しみはほとんど感じなかったですね。銀行や信用金庫は、僕たちみたいな若手のスタートアップは門前払いということも少なくないので……。

「一針ごとに、想いを込めて」という工場の理念に共感し、縫製は墨田区にある小倉メリヤス製造所に依頼。
理想とするものづくりを実現するため、全国の工場を自分たちの足で回る。丁寧で想いのこもった服づくりをする人々にたくさん出会った。

後:事務所がここにできてから、僕は墨田区に住居を移しました。町工場が多くて、本業には関係ない工場でも通りすがりにちょっと覗いてみたり。面白いですね。あとはTシャツとか、カットソー、編み物関係の工場があるのはいいですね、直接取り引きがなくても色々とお話を聞かせてもらったり、すごく勉強になります。

下田:メリヤス産業の歴史の話とかね。

後:墨田区は武家屋敷が多かったそうですが、江戸末期になると仕事がなくなってきて、彼らが自分の家で編み物をし始めたのがカットソーの工場が多くなった起源だとか。高い技術やノウハウを持っている工場が多いのには、そんな歴史的背景があるんだなと。

下田:小倉メリヤス製造所さんには〈10YC〉の服の縫製をお願いしているのですが、やっぱりたしかな技術があると感じます。

後:服の耐久性の面でいうと、要素的には生地の品質が大きいんですけど、最終的に製品になるときには、やっぱりどんなにいい生地を使っていても、縫製が悪いと台無しになる。最後の砦なんですね。ここの1㎜をどうするか、どう美しく丈夫に仕上げるか。そこを突き詰めてくれるのは本当に心強いです。

下田:あとはそういう職人さんたちから学ぶことが多い。というか学ぶことしかないですよね。ものづくりが好きで、どうやったらいいものをつくれるか、考え続けてきている人たちです。今はそういうのがないがしろにされて、どうやって大量に安くつくるかに主眼が置かれています。

消費者も縫製が綺麗だろうが汚かろうが関係なくて、1 万円より1000 円のほうがいいという風潮です。そういうもろもろが日本のものづくりが衰退してきた大きな理由のひとつだと思うのですが、そんななかでも妥協せず、いいものをつくろうとする職人さんがいる。それってすごく素敵なことだと感じたし、そういう人たちの技術とか生業をこの先に残していきたい。

それで今の小売りのビジネスモデルを変えれば、もう少しうまくいくんじゃないのかなと思うようになって。多少製造コストがかかっても、セールをせずに粗利率が取れる販売価格で販売できれば、原価が高くてもうまくいくんじゃないか。〈10YC〉を通して、そういう仮説を実証するための社会実験をしてみたいなと思っているんです。

1㎜を超える肉厚な帆布を使ったトートバッグ。生地と同じ色に染まる性質の糸を縫製に使い、染め直したときも綺麗に仕上がるよう工夫している。

後:僕は前職も今も製造現場とやりとりする仕事をしていますが、前職では工場の人と自分の間に仲介業者が入っていたので、工場の人と直接話すことは少なかったですし、「こういうものをつくりたい」と言うと、仲介業者が「じゃあ生地はここ、縫製はここでやったらいいですよ」と値段とのバランスで自動的に製造業者が決まる。

でも今は生地や縫製、染色と、それぞれの工場を回って「こういうものをつくりたいんです」というところから説明する。興味を持って話を聞いてくれる工場があれば、「じゃあうちのこの技術を使えば?」とドライだけど的確に対応してくれる工場もあったり、個性があってすごく面白いです。

下田:町工場って、今風の言い方をすればインディペンデントなわけです。それが墨田区の個性で、だからこそ僕たちみたいな若手のスタートアップを受け入れてくれる土壌があると思うんです。飲食店に関してはそういうお店が増えつつありますよね。アパレルで言うと、最近は「STORES.jp」や「BASE」など個人でネット通販をできるサービスを使ってブランドを立ち上げる人も増えています。

そういうブランドが集まって墨田区で実店舗を持てば、色々な個性が集まって面白い町になると思うんです。今は東京スカイツリーに行って終わりという人も、町を回遊するようになるかもしれない。近頃は空いた工場を壊してマンションが建ったりすることが多いけど、そんなことやってると普通の町になっちゃうんじゃないかな。すごくもったいない。

〈10YC〉のメンバーが着ているT シャツやパンツもすべて自社のもの。縦横に伸びるストレッチ性のあるパンツや、部屋干しでも3時間で乾く速乾性シャツなども。(東京都墨田区両国4-8-1 2 階/ Tel.03-6875-9319)

後:もともとあるインディペンデントな町の魅力を残していかないと、墨田区らしさはなくなってしまうと感じますね。

下田:僕たちも区の補助に助けられてここにきたので、若手のクリエイターにもそういう制度を広めていきたいですね。「なんか墨田って補助も手厚いし、物件もいろいろあるんだよ、来なよ」って。

後:クリエイティブ側にいる人がその輪を広げていく。そうやって自分たちも楽しくなっていくというのが理想ですね。

Photo / Tada (Yukai) (A, B, C, D)

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