SUMIDA MODERN

INTERVIEW

「すみだモダン」の仕掛け人に聞く

"近代化ではなく、現代化"
「すみだモダン」が目指すもの

水野 誠一

[すみだ地域ブランド推進協議会 理事長/ IMA 代表取締役]

Text / Yuriko Kobayashi

2021.8.20

2009 年にスタートした「すみだ地域ブランド戦略」は、東京スカイツリーの開業を3 年後に控え、墨田区の魅力を改めて発信し、知名度を向上させようというのが狙いでした。当時は各地で「町おこし」という言葉がよく使われていて、様々な企画が打ち出されていました。それで墨田区もそういうことをやりたいと。つまり「町のブランディング」ですね。それで私のところに話が来たわけです。

当時の町おこしは、たいてい2、3年で終わってしまう印象。大々的に花火を打ち上げても継続しないので根本的には何も変わらないまま。だったらやらないほうがいいというのが私の意見でした。プロジェクトを引き受けるうえで提示した条件は「最低でも10 年間は続ける」こと。そうじゃないと文化として根を張ることはできないと思ったからです。

墨田区や台東区は江戸時代から隅田川を挟んで両岸に様々な職人文化が育ってきた場所です。つまりブランドがあったわけです。明治以降、その技が全国的に認められたおかげで、大企業の下請けとして質の高い生産地になりました。しかし、近代化のなかで、江戸から続いてきた墨田区の独自ブランドが失われてしまったのです。今必要なのは下請けとして縁の下の力持ちであり続けることだけでなく、自らのブランドを改めて生み出していくこと。それで「すみだモダン」というブランドを生み出そうということになったのです。

その際、常に私がこだわったキーワードが、「近代化ではなく、現代化」ということ。墨田区には古きよき手仕事がたくさん残っていますが、それをそのまま出しても時代にフィットしません。かといって下請けとして縁の下の力持ちに甘んじるのでもない。大切なのは「古きよきもの」をどのように今の人の心に響くものとして打ち出していくか。それが「現代化」ということです。伝統的に継承してきた中身、本質はそのままに、それらを現代的にブランディングして蘇らせる。各事業者がこれを理解して頑張ってこられたからこそ、「すみだモダン」「すみだ地域ブランド戦略」の成功に結び付いたのだと思っています。

ではブランドづくりにあたって、具体的にどんな商品をつくっていけばいいのか。私は3つの要素を挙げました。ひとつは「理性」、つまり機能などの合理性ですね。次に「感性」で、これはデザインの部分。最後が「知性」。これは知的満足とも言い換えられるでしょう。こういう人たちがじっくりとつくったものだというような知性的な満足感が現在の購買活動には欠かせません。

私の経験上、この三拍子が揃わない商品はダメなのですが、墨田区はそれらすべてを揃えられる可能性を持っていました。まず「理性」の部分は、長年下請けとして培ってきた技術力があります。「感性」においては江戸から続く美意識、海外ブランドには真似できない日本固有のデザインが根付いていますし、外のデザイナーが提案する現代的なデザインを柔軟に受け入れる「新しいもの好き」の一面もある。そして「知性」においては、伝統を継承してきた多様な職人の存在がある。人の手から生まれる商品の背景にある唯一無二の「物語」が商品に知的満足を与えてくれるのです。この3つの要素を上手に組み込んでブランディングできれば、墨田区は、世界有数の"モノ文化発信地"になると確信したんです。

江戸木箸/大黒屋 「すみだモダン」2010 ブランド認証 商品

「すみだモダン」ブランド認証事業の立ち上げ当初は応募がたくさんあり、コンセプトに沿った素晴らしい商品が多数ありました。が、徐々にマンネリ化し、葛飾北斎の柄を使った商品や東京スカイツリーをテーマにした商品など、比較的安易なコンセプトのものが増えてきました。これでは「すみだモダン」が安直な"お土産品マーチャンダイジング"になってしまう。そうした状況を打開すべく強化したのが外部のデザイナーとのコラボレーション。ものづくりを本気でやっている人ほど自分の思考、視野が狭くなりがちです。発想を広げていくためには外からのヒント、アイデアが必要だと考えたのです。

例えば「すみだモダン」の中でも「ザ・ベスト」に選ばれたヒロカワ製靴の〈SPIDER- スパイダー〉もコラボレーション企画から生まれたもので、それまで使い道がなくて廃棄していた革の端材を集めてパッチワークをすることによって非常に新しい感覚の靴をつくった。デザイン的にはトラディショナルですが、そこに環境問題を重視する現代的なライフスタイル、考え方が融合している。まさに私たちが目指す「現代化」を象徴したようなプロダクトで、職人と外部のデザイナーとの理想的なコラボレーションの形だったと思います。

SPIDER/ヒロカワ製靴 「すみだモダン」2011 ブランド認証 商品 /「ものづくりコラボレーション」2009 開発商品

当初、ひとつの節目として考えていた10 年が過ぎましたが、「すみだモダン」にゴールというものはありません。絶えず『シンカ』し続けるというのが理想です。私は「シンカ」にはふたつあると思っていて、前に進む「進化」と同時に、深くなる「深化」の両方が必要です。今までの日本は「進化」は一生懸命やってきたけれど、「深化」はおろそかにしてきたように思います。

当初、ひとつの節目として考えていた10 年が過ぎましたが、「すみだモダン」にゴールというものはありません。絶えず『シンカ』し続けるというのが理想です。私は「シンカ」にはふたつあると思っていて、前に進む「進化」と同時に、深くなる「深化」の両方が必要です。今までの日本は「進化」は一生懸命やってきたけれど、「深化」はおろそかにしてきたように思います。

例えば伝統的な技術でも、深くしていくことによって、さらに違う表現や提案の可能性が出てくるということをこの10 年間の墨田区の取り組みが証明しています。文明的に進歩していくというだけでは、世の中全部が同じ方向に向かってしまう。墨田区は「進化」と「深化」が同時進行できる数少ない場所です。世の中が「進化」することしか考えないなかにあって、それは墨田区の絶対的な強み、差異化できる部分だと思っています。

職人が大切な人に贈ったはさみ/石宏製作所 「すみだモダン」2016 ブランド認証 商品/「ものづくりコラボレーション」2015 開発商品

「すみだモダン」のスタートから 10 年、今後の目標があるとしたらそれは、より本当の意味での現代化を目指すということです。近年はSDGs が叫ばれるようになりましたが、それを免罪符にするのではなく、素材の調達や製造工程、デザイン、パッケージ、流通に至るまで、「全人格的に正しいものをつくっている」というのが本当の意味でのSDGsであり、真の現代化なのだと思います。

江戸という都市は当時から理想的な循環型社会だったと言われています。「自分たちの体に流れる血は、SDGs を掲げて野暮な金儲けをするようなものじゃない」。各つくり手が、そういう江戸っ子の心意気、アイデンティティに気付くことこそが真の現代化だと私は考えています。本当に正しいものづくり、"正しい粋"というのが、今後の「すみだモダン」のキーワードになってくるのではないでしょうか。

水野誠一

1946 年、東京都生まれ。インスティテュート・オブ・マーケティング・アーキテクチュア(IMA)代表取締役。1970 年に西武百貨店入社。1990 年に同社代表取締役社長に就任。「SEED 館」「LOFT 館」などを手掛ける。その後、参議院議員に。母の実家があった台東区蔵前で幼少期を過ごしたことから隣の墨田区にも縁深く、思い入れを持ってプロジェクトに取り組んでいる。

Photo / Tetsuo Kitagawa (A, F, I) 
Kasane Nogawa (B, C, D, E, G, H)

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