SUMIDA MODERN

FUTURE VISION

「すみだモダン」の仕掛け人に聞く

みんなでデザインする町へ。
「すみだモダン」のこれから

廣田 尚子[Hirota Design Studio] ×
瀬戸 正徳[墨田区役所]

開始から10 年をひとつの節目として、2021年より新たにスタートを切った「すみだモダン」。これまでの「ものづくりコラボレーション」事業を昇華させ、新たにどんな取り組みが始まるのか、その鍵を握るふたりに、今後の展望と、今描いている理想像を聞いた。

Photo / Taro Oota 
Text / Saori Takagi

2021.8.20

廣田 尚子

1965 年生まれ。プロダクトデザイナー。東京藝術大学デザイン科卒業。GK ランニングアンドデザインを経てHirota Design Studio 設立。ビジネスモデルのデザインから製品開発に至るトータルソリューションを行う。女子美術大学教授、グッドデザイン賞審査委員。すみだ地域ブランド戦略推進検討委員会の委員も務めた。

瀬戸 正徳

墨田区役所 産業観光部 産業振興課 課長。1989 年入庁。区議会事務局、契約、広報(報道担当)、産業振興などに従事。産業振興では、ものづくりを中心とする中小企業を支えたすみだ中小企業センターの館長として産学官連携や事業承継などに携わり、2020 年4月から現職。

「すみだモダン フラッグシップ商品開発」をディレクションする廣田尚子さん(左)、区の担当として併走する瀬戸正徳さん(右)。墨田区の商品を中心に販売や関連ワークショップの社会実験を行う「SHOP & WORKSHOP すみずみ」にて。

瀬戸:これまで「すみだモダン」は墨田区のものづくりの魅力を掘り返し、優れたプロダクトを認証していくことが主な内容でした。言ってみれば「もの」が中心だったわけです。でも、これからの新しい「すみだモダン」はもう少し視野を広げていきたいと思っています。プロダクトだけでなく、各事業者の活動も含め、地域そのものをブランディングしていくという考え方です。そして、その柱のひとつである「すみだモダン フラッグシップ商品開発」事業を統括していただくのが、クリエイティブディレクターの廣田尚子さんです。

廣田:よろしくお願いします。大役に身が引き締まる思いです。

瀬戸:「すみだモダン フラッグシップ商品開発」をどなたに引っ張っていっていただこうかと考えていたとき、色々なアドバイザーの方にご意見を頂戴したのですが、廣田さんが提案してくださったアイデアに心を掴まれまして。こういう考え方でやれるなら、「すみだモダン フラッグシップ商品開発」は必ずいいプロジェクトになると確信したんです。

廣田:"Co-Design"という考え方ですね。つまり"みんなでデザインする"ということです。今、そして今後は"デザイン経営時代"と言われているんです。経営者自らが自分の会社や、そのあり方をデザインしていく。これは国も推し進めていることで、発想自体は素晴らしいのですが、私は様々な中小企業を見てきた経験上、小さな会社の経営者にそれを求めるのは、少し無理があるのではないかと思っているんです。

瀬戸:中小企業の経営者は、資金繰りも含めて本当にやることが膨大ですしね。

廣田:経営者ひとりでやるのが難しいのであれば「じゃあみんなでやりましょう」というのが"Co-Design"の考え方です。例えば社員それぞれが自分の得意なこと、できることを持ち寄って参加し、みんなで商品やサービス、会社そのものをつくっていく。そうすると自然と会社に愛着が芽生えますから、そこで生産性も高まります。そうやって徐々に会社に「体力」をつけ、社員は「知恵と経験」を身に付ける。それは勇気や自信という形となって会社を支えるものになると思うんです。

瀬戸:企業の経営をデザインしていく時代ですか。しかもそれを社員も一緒にやる。

廣田:約3000 の企業のうち500 件から回答を得た調査によると、そうしたデザイン経営を実践している企業の多くが、未来に向けて希望を持っている率が高いという分析結果が出ています。そして実際に経営も上向いているんです。

瀬戸:それはすごいですね。

廣田:では墨田区では具体的にどんなことをやっていくのか。もちろんものづくりの文化は大切にしていくのですが、ものをつくる前に事業者さん向けのワークショップやセミナーを開いて、自分の会社は何が得意なのか、どんな活躍ができる可能性を持っているのか、そういった自己分析をする機会を設けることが重要なんじゃないかと考えています。

瀬戸:まずは自分を知ることからですね。

廣田:これまでの「ものづくりコラボレーション」事業では、外部のデザイナーと事業者をマッチングして優れたプロダクトを生み出してきました。でも各事業者さんが自分の強みをより明確に分かっていれば、その相乗効果はさらに高まるはずです。「有名なデザイナーに任せておけばいいものができて、それを売ればいいや」みたいな考えでは立ち行かない時代だということは、各事業者さんも気が付いているはずです。

瀬戸:そこは私たちもずっと考えてきた部分です。他人任せになると、商品ができたとしても、その後に事業者が自走するのが難しい。

廣田:墨田区でものづくりをされている方々は強いこだわりをお持ちですし、現場で培ったセンスもあります。ただ職人というのは自己完結してものをつくることが多いせいか、外部の人とコミュニケーションを取りながら、広くつながりを持つということに慣れていないように思います。そういう方々にワークショップやセミナーに参加していただくことで、どんどん外とつながって、大勢の人と助け合いながらものづくりをする体験をしていただきたい。そうやって本来持っているポテンシャルを引き出し、高めていってもらえたら、いい循環が生まれるのではないかと。

瀬戸:職人さんや中小企業の社長さんはお話し上手な方は多いですが、いざ大人数の前でプレゼンとなると苦手意識を持つ方も多いように感じています。そこを得意に変えていけたら、また違った展開が期待できるかもしれませんね。実際、対外的なコミュニケーションに長けた方は、国内はもとより、海外への展開も広げています。

廣田:私はこの10 年間、「東京ビジネスデザインアワード」というコンペティションの審査委員長を担当してきたのですが、その経験が今回の新しい「すみだモダン フラッグシップ商品開発」のコンセプトが生まれるきっかけになっているんです。

瀬戸:「東京ビジネスデザインアワード」も中小企業とデザイナーをマッチングしてプロダクトやサービスをつくる事業ですよね。

廣田:そうです。ヒット商品もたくさん生まれたのですが、私が一番印象に残っているのは、参加した企業の社員さんたちの変化なんです。ほとんどの企業がずっと下請けだったのですが、この事業に参加してデザイナーと一緒にものづくりを始めると、社員さんたちがすごく変わってくるんです。目が変わるというんでしょうか、キラキラと輝いてくる。「うちの会社はこういうことをやっているんだ」というように、自分の会社についてしっかりと説明ができるようになるんですね。

瀬戸:下請けだけだと自社で製品をつくることがないので、「何をつくっている会社です」と明確に説明しづらいですものね。

廣田:もちろんその事業を通して生まれたプロダクトにも大きな価値がありますが、私はそれ以上に社員や社内の空気が変わったことが素晴らしいと思っていて。残念ながらこの事業での担当は2020 年で任期を終えましたので、さらにアップデートした形で実践してみたいという想いがあったんです。

瀬戸:外部とのつながりを体験して、自分の会社の強みを知り、社員が変わっていく。これからの「すみだモダン フラッグシップ商品開発」を通して、その先を見てみたいということなのでしょうか?

廣田:そういう意味では、事業者が変貌を遂げる「手前」を見たい、関わりたい、という感じです。「すみだモダン フラッグシップ商品開発」では希望すれば誰でもワークショップやセミナーに参加できて、じっくりと時間をかけて、様々な分野を学べる仕組みをつくっていきたいです。学ぶ分野はデザインをはじめ知財、流通や販路開拓、情報発信など、事業者が長期的に自走していけるような実務的なことも含めて充実させていきたいです。

瀬戸:事業者がしっかりと自分の意志を持って、自分の言葉で話せるようになってからデザイナーとのマッチングをやっていく。それは双方にとっていいことですね。

廣田:もうひとつ、ぜひやってみたいと思っているのが、墨田区の事業者と、比較的大きな企業の中にいるインハウスのデザイナーをマッチングする取り組みです。中小企業にとっては下請けでなく対等な関係性で大きな企業と仕事をする経験になりますし、いっぽうでインハウスのデザイナーにとっては外で研修をして、自社製品以外のものを開発、デザインするという経験ができます。墨田区の中小企業が持っている高い技術を活用できるというのもメリットになります。今は「複業」を奨励する時代で、会社員であってもインディペンデントな視点が必要になってきています。自分の机の範囲だけの業務、ノウハウだけでなく、もっとトータルな技術や知見を持った人を企業も求めているはずです。そういう意味で、インハウスのデザイナーが外の企業と組んで仕事をするというのは、大企業もいい機会として捉えてくれるのではないかというのが私の読みなんです。

瀬戸:それはとても面白いですね。どんなプロダクトが生まれるか、ワクワクします。

廣田:色々な方が出会う、"Co-Design"できる機会・場をつくり、化学反応を起こす。最終的に何かものが生まれるわけですが、大切なのはそのプロセスで、そこにどれだけ豊かな部分をつくれるか。それが私の仕事だと思っています。

瀬戸:そういう取り組みを通して、「墨田区でものづくりをしたら面白そうだよね」という人が増えてくれたらとても嬉しいです。「何かチャレンジするなら、墨田区でやろう!」みたいなね。私は短期間ですが、アメリカのオレゴン州にあるポートランドという町に住んでいたことがあるのですが、そこはまさにそういう雰囲気の町で、アメリカ全土、世界中から「何かやりたい」という人が集まってくるところです。〈ナイキ〉など世界規模のメーカーの拠点も近くて、その町に行けば何かが起こりそうだっていうワクワク感があるんです。「すみだモダン フラッグシップ商品開発」を通して墨田区をそういう町にしたいというのが夢なんです。

廣田:町の気質という点で考えると、墨田区は下町らしい人情と、"にぎわい"があるなと思っています。

瀬戸:"にぎわい"とは素敵な言葉ですね。

廣田:その"すみだらしいにぎわい"の部分をプロダクトや、それがつくられるプロセスに反映していけたらいいですね。みんなで一緒になって体温のあるものづくりをする。そうすれば町にも活気が出て、住む町としても魅力的になるのかなと思います。

瀬戸:墨田区には2020年にiU 情報経営イノベーション専門職大学、2021 年に千葉大学が開学しました。多くの学生が町に入ってきて、いっそうにぎわいが増しています。

廣田:学生さんたちには、ぜひ情報発信の部分を担ってほしいですね。墨田区の事業者とデザイナーが一緒にものをつくるプロセスを写真や映像で記録したり、それをSNS で発信したり。若い世代のほうがそういうことは得意でしょうし、学生にとっても貴重な経験になるのではないでしょうか。

瀬戸:職人の周りに学生がいる。その風景はすごくいいですね。

廣田:あともうひとつ理想を言うと、ぜひ地元の信用金庫のみなさんにも"Co-Design"に参加していただきたいです。地元に密着した信用金庫がビジネスデザインをできたら心強いですし、信用金庫にとっても大きな武器になると思うんです。単にお金の話だけじゃなくて、各事業者のものづくりの姿勢やプロダクトのこともすべて理解したうえで一緒に経営のことを考えていく。知財戦略的なこともできたら、最強のパートナーになれますよ。

瀬戸:信用金庫さん向けの経営デザインセミナーというのも、いいかもしれませんね。

廣田:いいですね! どんどん墨田区のみなさんをつなげて、仲よくしていく。その輪を広げていくためのプラットフォームづくりを「すみだモダン フラッグシップ商品開発」で実現できたらいいなというのが理想です。

瀬戸:なんだかすごく素敵な町のイメージが浮かんできました。絶対に実現しましょう!

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