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共創性

カカオ豆の選定からこだわった手づくりチョコレートが世代をつなぐ――SUNNY CHOCOLATE

2026.02.09
「SUNNY CHOCOLATE」は、墨田区内で唯一、カカオ豆の選定からチョコレートになるまでの全工程を自ら手掛ける「Bean to Bar(ビーントゥバー)」のチョコレートショップ。産地ごとにまったく異なるカカオの個性が味わえるクラフトチョコレートが評判だ。オーナーでチョコレートメーカーの伴野智映子さんは、子どもから大人まで一緒に楽しめるチョコレートの魅力を伝えるべく、多彩な活動に取り組んでいる。

京島の隠れ家的クラフトチョコレートショップへ

京島の建物を上った先に現れる「SUNNY CHOCOLATE」の工房は、スカイブルーの壁とやわらかな自然光に包まれた、街の喧騒を忘れさせる空間だ。焙煎されたカカオの香りが漂い、カウンター越しに製造風景を感じながら過ごすひとときは、秘密の隠れ家に招かれたような特別感を与えてくれる。

「SUNNY CHOCOLATE」は、2023年11月に創業したクラフトチョコレートショップ。墨田区で唯一、カカオ豆からチョコレートになるまで一貫して手づくりする「Bean to Bar」スタイルの工房だ。

クラフトチョコレートには、量産品では感じることのむずかしい、豊かな香りや深い味わいがある。「SUNNY CHOCOLATE」がつくり出すチョコレートも、こうした個性が存分に感じられるラインナップで世のチョコレート好きを魅了している。

京島の明治通り沿いに立つ、こぢんまりした建物の前に太陽のイラストが描かれたかわいらしい看板が出ていた。その案内に導かれるように建物脇の階段を上っていくと、4階へ続く踊り場から雰囲気が一変。一面がスカイブルーにペイントされた空間に切り替わった。エキゾチックな趣が漂う階段を一段また一段と上るにつれて、鼻腔をくすぐる独特の香りが強くなる。ワクワクしながら最上階に到着すると、そこにはルーフトップという利点を活かした、採光の良い明るい空間が広がっていた。

太陽をモチーフにした「SUNNY CHOCOLATE」のマークは、カカオが育つ大地の恵みと、人の手で丁寧につくられる温もりを象徴している。やさしく微笑むような表情には、子どもから大人まで分け隔てなく楽しんでほしいという想いが込められ、工房を訪れる人をそっと迎え入れる目印となっている。

店舗の中央にはカウンターがひとつ。その向こうにはカカオ豆の入った箱やチョコレートをつくるための機械が置かれ、上の棚にはさまざまなチョコレートの本がディスプレイされている。ここにただチョコレートを買いに来るだけでも、秘密の隠れ家に行くような気分を体感できてしまう素敵なスペースだ。

この工房ではチョコレートメーカーの伴野智映子さんがつくるチョコレートドリンクを飲むことも可能で、とっておきの一杯をゆっくりと味わいつつ、チョコレート談義に花を咲かせたり、屋上に出て東京スカイツリー®の景観を独り占めしたりと、特別な時間を楽しむのもおすすめだ。

カウンター脇で、伴野さんがチョコレートリファイナーに向き合う。なめらかに練り上がるチョコレートを覗き込むたび、温かなカカオの香りが立ちのぼり、工房の空気をやさしく満たしていく。

産地で変わるカカオの味わいを楽しむクラフトチョコレート

「SUNNY CHOCOLATE」が使用する原材料は、厳選したカカオ豆と奄美大島産の素焚糖(すだきとう)の2つのみ。精糖度を抑えた素焚糖には、サトウキビ由来のコクや香りが感じられ、チョコレートにまろやかな甘さを添える。

商品構成もシンプルだ。カカオ豆は3つの産地に絞り込み、それぞれの個性を最大限に引き出したシングルオリジンのチョコレート3種に、ピーナッツチョコレート、塩チョコレートを加えた全5種類のみ。

その理由を伴野さんが教えてくれた。

「種類が多いと、食べ比べたときに最初の味を忘れてしまうこともあるかもしれません。そこで、誰が食べても“違いがわかる”ことを大切にしたかったんです。さらに誰かと一緒に食べたときに自然と笑顔になって、『どんな味がする?』と会話が生まれるきっかけになってくれたらうれしいですね」

伴野さんが購入するのは、日本と何らかの関わりをもつカカオ豆だ。

「国産のカカオ豆は希少なため使うことができません。地産地消が難しいならせめて、エクアドルを専門とする日本の輸入屋さんや、ベトナムで日本人女性がやっているカカオ農園など、日本と関わりのあるところから買うようにしたかったのです」

チョコレートのフレーバーは、産地で行われるカカオ豆の発酵度合いや焙煎の具合によって大きく変わる。伴野さんが3種類のチョコレートづくりで最も重視したのは、子どもでもその違いがわかる明確な味の個性だった。

花の蜜のような甘い香り、フルーティーさやキャラメルのニュアンス、甘酸っぱくやさしい余韻――それぞれのカカオ豆がもつ特徴を最大限に引き出すため、焙煎を微調整しながら何度も試作を重ねたという。

「焙煎によって引き出される風味が変わるところはコーヒーと本当に似ています。すんなり決まった味もあれば、焙煎方法を変えるたびに色々な味が出てきて甲乙つけがたかったり、決め手がなかなか見つからないものがあったりと、苦戦しました」と伴野さん。

「SUNNY CHOCOLATE」のチョコレートは、花の蜜のように華やかな香りが広がるエクアドル産カカオの〈花〉、爽やかで軽やかな余韻が印象的なボリビア産カカオの〈空〉、香ばしい千葉県産落花生を合わせた〈豆〉、カカオの甘みを引き立てる塩味が後を引く〈塩〉など、素材の個性をそのまま名前に映し取り、産地や味わいの違いを直感的に楽しめるラインナップとなっている。

そんな3種のチョコレートを実際に食べ比べてみると、確かにそれぞれ違った味わいが感じられる。なめらかな口溶けの先に、個性の異なる芳醇な香りや旨みが広がり、なんともぜいたくな気分だ。袋を開けてつまんだ1枚を口のなかに入れるだけという気軽さで、上質なクラフトチョコレートを味わえる幸せに、思わず顔が綻んでしまった。

クラフトチョコレートとの出合いが人生を変えた

カウンター越しに語る伴野さんの言葉には、カカオと真摯に向き合ってきた時間がにじむ。静かな工房に声が溶け込み、チョコレートづくりへの想いが、ゆっくりと聞き手の心に広がっていく。

東京農業大学の応用生物科学部栄養科学科で管理栄養士を専攻していた伴野さんは、資格を活かしてゴディバ・ジャパンの品質保証部で働いていた。昔からチョコレートが好きだったのかと尋ねると、チョコレートに開眼したのは意外にもその仕事を辞めた後のことだったという。

「きっかけは2015年に行ったアメリカのポートランドへの一人旅です。クラフトビールの聖地として知られるポートランドには、ほかにもクラフトジンの蒸留所やFarm to Table(農場から食卓へ新鮮で安全な食を届ける取り組み)のレストランなどがあり、私もこうしたユニークな場所を何カ所か回ってみました。そのひとつがクラフトチョコレートの工房だったのです。それまで大量生産の現場は見てきたことがありましたが、カカオ豆からていねいにチョコレートがつくられていく過程を知って感銘を受けました」

帰国後、クラフトチョコレートへの熱がさめやらぬときに、伴野さんはサンフランシスコ発のクラフトチョコレートショップであるダンデライオン・チョコレートが、海外初出店にあたりチョコレート製造スタッフを募集していることを知る。そして運命に導かれるように応募すると、見事にチョコレートプロダクションチームに配属され、クラフトチョコレートの製造者としてのキャリアをスタートさせることになった。

「店舗は蔵前にあったのですが、蔵前という場所は自分でお店を立ち上げた人も多い場所です。私の夫も蔵前でお茶のお店をやっているので、そうした人たちとの交流会も頻繁にありました。そんなとき『伴ちゃん、いつお店を持つの?』などと声をかけられ、だんだんと自分の店を始めてみたいと思うようになりました」

コロナを経て、ダンデライオン・チョコレートを退職することになったとき、伴野さんの息子が保育園に通い始めた。子どもの体調次第で不意に親が呼び出されることも少なくない中で、社員で働くことの難しさを感じていた伴野さんは「今がそのタイミングなのかもしれない」と起業を決めた。

子どもから年配者まで、美味しいチョコレートを楽しめるように

チョコレートリファイナーは、カカオと砂糖を長時間すり合わせ、粒子を極限までなめらかにするための要の機械。伴野さんはその音と香りに耳を澄まし、愛情を込めて、チョコレートの完成を静かに待つ。

「起業にあたっては、今まで私がチョコレート業界で体感してきた“こうだったらいいのに”という想いを、ひとつひとつコンセプトに落とし込むことから始めました。ダンデライオン勤務時代に『クラフトチョコレートは高価だから子供に隠れて食べている』という話を耳にするたび、クラフトビールやクラフトジンといった嗜好品には大人しか味わえないものが多いなか、クラフトチョコレートはせっかく子どもも食べられるものなのに、そうした機会をあげられないのはもったいないなと思っていました。そこで、子どもから年配者まで、誰もが食べやすく、食べる時間を一緒に楽しんでもらえるようなチョコレートを、というコンセプトで、形状やパッケージに落とし込んでいったのです」

まずこだわったのは、チョコレートのサイズだ。簡単に割ることができれば子どもにも分けやすい。そのため1枚を31mm四方とした。そしてちょっと小腹がすいたときに食べれば満足感が得られるよう量は5gに。さらに子どもから年配者まで歯で噛みやすいよう厚さは5mmに設定したのだ。

SUNNY CHOCOLATEの〈花〉は、ひと口でその名の由来が伝わる一枚。口に含むと、花の蜜を思わせるやわらかな甘みと華やかな香りがふわりと広がり、後味は驚くほどすっきりしている。31ミリ角の小さなサイズは割りやすく、誰かと分け合うのにもゆっくり味わうのにも程よい。

パッケージは紙の包装ではなく、食べたいときに、パッと開いて簡単に口に入れられる形状にして利便性を追求。

表書きに記した商品名は、子どもも読みやすいよう「花」や「音」、「空」などシンプルなネーミングとした。そして裏には各チョコレートの味の特徴や、どういった気持ちのときに食べると良い、といった伴野さんからのアドバイスが印刷されている。

「私と直接お話ししたお客様ならなんとなくこんな味かな?と想像しながら食べられると思いますが、例えばプレゼントでもらった方や、他の卸先を通じて購入された方にも、そのチョコレートの味のイメージや、食べるシチュエーションを想定できた方が親切かな、と考えたのです」と伴野さん。

もちろん、千円以下というアクセスしやすい価格設定も見逃せないポイントだろう。

SUNNY CHOCOLATEのベランダに出ると、視界の先に東京スカイツリー®がすっと立ち上がる。焙煎されたカカオの余韻を胸に、下町の空と象徴的な景色を同時に味わえる、ここだけの贅沢な眺め。

墨田区で起業する理由と、地域とつながるものづくり

伴野さんが墨田区で起業した理由は、以前曳舟に住んでいたため土地勘があったということに加え、墨田区がものづくりのまちであることや、行政が起業しやすい環境を整備してくれていることにあったという。

「私は、これから起業しようという人みんなに『起業するなら墨田区においで』と言っています。無料の経営相談窓口『すみサポ』や、融資の斡旋があること、そして起業するまでのサポートが手厚く、起業したあとも個人がやっているお店が参加しやすいイベントがすごくたくさん用意されていますから。自分で頑張って売り込みに行かなくても、区のサポートのもとでイベントに出展すればコツコツ積み上げていけるという環境が本当にありがたいと感じています」

そして何より、人のつながりも大きい。

SUNNY CHOCOLATEのものづくりを象徴する存在のひとつが、隠れた人気を誇る「アソート缶」だ。 その缶を手がけるのは、東京・浅草橋(台東区)に拠点を構える明治28年創業の加藤製作所。地域に根差し、技を受け継いできた職人の仕事と、分野や地域を越えて価値を高め合う協働のあり方が重なり合うなかに、墨田区で育まれてきた、ものづくりの姿勢が感じられる。そしてその輪は、着実に広がり続けている。

「蔵前のコミュニティは墨田区のコミュニティとも交流があって、数珠繋ぎ的にどんどんいろいろな方とお話しする機会が増えていきました。そうした縁で参加したすみだモダンコミュニティの交流会で、当時工房を構えていた錦糸町のマンションの解体工事が迫り、引越し先を探しているという話をしたところ、すぐに3〜4人から今の物件を紹介してもらったのです。下見に行くと、ダンデライオン時代の同僚がやっているtorinosという焼き菓子店が以前あった場所のすぐ近くでした。不思議なご縁を感じていると、オーナーさんがやってきて、同じタイミングでチョコレート屋が何か探しているらしいという話を耳にしていたといい、とんとん拍子で移転が決まったのです」

「すみだモダンコミュニティ」にもすごく楽しい人が多く、ふとしたコミュニケーションから今までにないコラボレーションにつながり、面白いものができたりすると伴野さん。

「例えば『サラミ製造工房Otis(オーティス)』さんとのコラボレーションで生まれたチョコサラミも、「東向島珈琲店」のマスターが紹介してくださったご縁でたまたまお店にうかがったとき、ちょうどカカオサラミを開発中だった社長さんに『いた!チョコレート!』と声をかけられて実現しました(笑)」

そのほかにもカカオ豆を取り出した際に残るカカオハスク(カカオ豆の外皮)の再利用として、「電気湯」の薬湯として活用してもらったり、「すみだ青空市ヤッチャバ」のコンポストに持っていったりしているそうだ。

「ヤッチャバさんとはカカオハスクからできた肥料でじゃがいもを育ててポテトチップスをつくり、ポテトチップス・チョコレートにしよう、という夢の話もしているので、いつか実現させたいです」

すみだモダン認証が示す、世代をつなぐチョコレート

こうした多彩な活動が認められ、SUNNY CHOCOLATEは下記のとおり『すみだモダン2025』に認証された。

認証名:【カカオ豆の選定から行う独自のチョコレート製造販売とワークショップや地域との連携により世代をつなぐ活動】
認証商品:クラフトチョコレート
概要:区内で唯一、カカオ豆からチョコレートになるまでの全工程を一貫して製造するビーントゥバーにより、チョコレートを販売。〈花〉〈空〉〈音〉〈豆〉という商品名は、子どもにも読みやすく配慮した名称。チョコレートを通じて子どもと大人が一緒に楽しめる場づくりのため、定期的にワークショップを開催。区内飲食店とのコラボや、電気湯とは製造の過程で出るカカオの外皮を使った「カカオ風呂」を企画するなど、地域協働と循環を志向したものづくりを進めている。

チョコレートを通じて、人と街をつなぐ

すみだモダン応募のきっかけは、SUNNY CHOCOLATEの味に惚れ込んだ「ひがしん(東京東信用金庫)」のスタッフによる熱烈な推薦だった。京島の工房の入るビルのオーナーの知り合いとしてやってきたその人は、普段チョコレートは苦手で口にしなかったのだが、試しに〈音〉を食べてみると、その味わいにいたく感銘を受けた。

そして「これ、めちゃくちゃ美味しいから、もっとみんなに広めたほうがいいですよ。やってみたらどうですか?」と、早速応募書類に下書きまでつくってもってきてくれたのだそうだ。

認証を受けた数々の活動のなかで、伴野さんがいま最も力を注いでいるのが、カカオ豆からチョコレートをつくるワークショップだ。

「ワークショップというと、子どもが参加して親は見ているだけというものが多くて、親子で一緒に楽しめるものは少ないような気がしています。でも、カカオ豆からチョコレートをつくる作業は、きっと親もやったことがないので楽しいはずです。もちろん、子どもにとっても初めての体験ですから、親子で同じ気持ちで、心から楽しんでもらえるものだと感じています。工房でのワークショップや『スミファ(すみだファクトリーめぐり)』などを通じて、こうした機会をなるべく増やしていきたいですね。この街で、皆さんとますますコミュニケーションをとっていけたら」と、目を輝かせる伴野さんは最後にこう言った。

「すみだモダンブルーパートナーでもさまざまな方と知り合い、何かを一緒に取り組んでいけたら! まだ、具体的に何ができるかは全然想像できていませんが、できたらいいなと思っています!」

カカオ豆と真摯に向き合いながら、人と人をつなぐチョコレートを生み出す伴野智映子さん。素材の個性に耳を澄ませ、子どもから大人まで同じ時間を分かち合える味と形を追求してきた。その穏やかな笑顔の奥には、経験に裏打ちされた確かな技と、街とともに歩もうとする強い意志が宿っている。
Company Data
SUNNY CHOCOLATE
ADDRESS:東京都墨田区京島3-57-4 4階
HP: https://sunnychoco.base.shop

Text: Masami Watanabe
Photo: Sohei Kabe
Edit: Kazushige Ogawa / Hearst Fujingaho
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