ものづくりの創出拠点「コトモノミチ」とは
やわらかな春の日差しに包まれた3月14日(土)の午後、錦糸町と押上を結ぶ四ツ目通り沿いに立つ「コトモノミチ at TOKYO」には、デザインやものづくりに関心のある人々が続々と集まっていた。「職人BAR×すみだモダン」のトークイベントに参加するためだ。
「コトモノミチ at TOKYO」は、商品や事業のデザインからプロデュースまでを手がけるクリエイティブカンパニー、「セメントプロデュースデザイン(CEMENT PRODUCE DESIGN)」が運営するセレクトショップ。
「墨田区とのご縁は2014年の『ものづくりコラボレーション』事業にコラボレーターとしての参加を打診いただいたことでした」と話すのは、セメントプロデュースデザイン代表取締役社長の金谷勉さん。
「その頃はまだ青山で事業をしていたのですが、すみだの事業者さんたちと一緒に商品開発をするうえで、何度か打ち合わせを重ねるうちに、『金谷さん、なんで港区にいるんですか?』と言われるようになったんです(笑)」
移転の直接のきっかけは2018年の墨田区による「新ものづくり創出拠点」事業に選ばれたことだった。同社がこれまで行ってきた全国1,000以上の地域産業協業活動でのネットワークや知見を活かし、墨田区でも町工場のための新たなものづくり拠点をつくることになったのだ。
2019年、「コトモノミチ at TOKYO」が業平にオープンするとともに、セメントプロデュースデザインの会社自体もこの地に移転した。
店舗の名称である「コトモノミチ」は、技術(コト)意匠(モノ)、販路(ミチ)を示しており、やがてはその事業者が自力で商品開発から販路開拓まで行えるように、という金谷さんの願いが込められている。
店内に並ぶこだわりの品々の多くは、セメントプロデュースデザインが企画の段階から日本各地の事業者と密に連携をとり、世に送り出した自信作。工芸品から食品に至るまで、遊び心や工夫に満ちた商品が並ぶ。商品のポップを読んだり、それぞれの品物を手にとってみたりするだけでも、あっという間に何時間か過ぎてしまいそうなほど、個性的で魅力的な品揃えだ。
「すみだモダン」がモノだけでなく、その裏側にある活動に焦点をあてた認証へと舵をきった2022年からは、ここで毎年1カ月ほど「すみだモダン」ブランド認証展のポップアップも開催している。
認証商品を手に職人の話を聞く「職人BAR×すみだモダン」
「コトモノミチ」は、先に述べた「新ものづくり創出拠点」としての役割を担っている。
そのため物販のほかに、日本各地の企業や職人と消費者をつなぐための事業分析や商品開発を学ぶ交流会を行ったり、ものづくりのワークショップといった体験の場を提供したりしている。
「職人BAR」も、こうした体験イベントのひとつ。職人がBARの店主となり、店のカウンター越しにものづくりや商品に込めた想いをプレゼンテーションするというユニークな企画だ。
今回の「職人BAR×すみだモダン」は、同店で開催中の「すみだモダン2025ブランド認証展」にあわせて、人気イベントである「職人BAR」とのコラボレーションを実現させた形だ。このイベントは事前予約制で、1部と2部とも好評のうちに定員に達した。
第1部は株式会社片岡屏風店と有限会社フルカワのプレゼンテーションと、SUNNY CHOCOLATEのチョコレートテイスティングだ。はじめにセメントプロデュースデザインのチーフデザイナー福森美晴さんの進行により、「すみだモダン」の紹介を皮切りにイベントはスタート。
「このたび、すみだモダンに認証されたのは6社、各商品は後ろの展示でご覧いただけます。 当店でお披露目販売をしておりまして、今回はそのバックグラウンドを事業者の方々にお話していただく『職人BAR』というイベントを開催いたします。どうぞよろしくお願いいたします」
現代生活に取り入れやすい節句飾りを開発した片岡屏風店
拍手で迎えられたのは、向島に店舗を構える片岡屏風店3代目、片岡孝斗さん。片岡さんは簡単な自社紹介の後、屏風の1300年にわたる歴史や屏風のもつ3つの役割(風を防ぐ、間仕切り、絵を保存する媒体)を流暢に解説。
続いて片岡屏風店80年の歴史のなかで、節句飾りから結婚式の金屏風、アート作品やオーダーメイドなど、時代に応じて柔軟につくり上げてきた商品が次々とプロジェクターに投影されていった。その後はいよいよ、今回「すみだモダン」の認証を受けた新しい節句飾り「扇-SENN-」についての解説だ。
「これは、屏風で表現する節句飾りです。もともとは『すみだモダンフラッグシップ商品開発』というものに参加させていただいて開発しました。デザイナーの方と組んだときにいろいろなアイデアが出たんですけど、当社は創業以来ずっとお雛様や節句関連の屏風をつくってきたこともあり、その辺のノウハウは持ち続けています。今は発注が減ってきてしまっているんですが、フラッグシップという立て付けだけに、原点に立ち返りたいと考えたのです。 最初は雛人形の屏風を諦め、違う方に振ろうと思ったんですけど、やっぱり祖父が創業したときのマインドを、今一度形にできないかということで、このような商品をつくりました」
参加者は片岡さんの話に耳をかたむけながら、目の前に披露された商品を興味深げに手に取り、木製の可愛らしい雛人形を屏風につけたり取ったりして、その優しい感触を確かめていた。
驚くほど足にフィットする和紙の靴下の誕生秘話
続いては、一度履いたら虜になるという「WASI WASI 和紙足袋靴下」をつくった有限会社フルカワの古川昌宏さん。
今から約70年近く前にメリヤス工場の多い墨田区石原で工業用ミシンのディーラーとして事業を開始し、のちにメリヤス肌着の袖口となる横付属(ニットリブ)を製造するようになったという会社の成り立ちや、長くOEMだけをやってきたものの、やはり自分たちでもBtoCの商品をつくりたいという想いから、商品開発の糸口を模索していたなかで誕生した「WASI WASI 和紙足袋靴下」について紹介。
そのきっかけはコロナ禍に開発した和紙糸のマスクだったそうだ。古川さんはこの製品の“毛羽立ちが少なくかゆくならない”という点に着目した。
「とはいえ、このすぐ切れてしまう糸をどうしていいか、最初の頃は全然分からず、やめようかなと何回も考えました。ですが、うちのような会社はOEMの仕事はあっても、自分たちで発信できるものが一個もなかったので、なんとか一つ新しいものをつくろうと試行錯誤を重ねるうち、少しずつ編めるようになってきて。さらに、うちには素材を染料で染めるインクジェットの設備のプリンターがあるので、柄を入れても面白いなと。編み機とプリンターを持っている会社はそんなにあるものではないので、唯一無二のものをつくれるのではないかと」
和紙糸を78%の割合で編み上げられている点も見逃せない。大手は、切れやすい和紙糸の弱点をポリエステルなどの割合を高くすることで解決しているが、フルカワは和紙糸を78%という高い混合率で編み立てることにこだわった。
「和紙にはもともと、天然由来の抗菌防臭、調湿という効果がありますが、混合率を高くすることでその効果がしっかりと得られると考えたからです。また、編み方にも非常にこだわりました。親指の爪側に対して腹側をすごくラウンドさせて編んでいるので、履き心地が大変優れています。土踏まずのところもポリウレタンを思いっきり入れたのですごく弾力性がありますし、独立してつくったかかとのおかげで、履いていてもずり落ちることがありません」
古川さんは、靴下の履き口部分を見せながら、さらに解説を続ける。
「ここはちょっとゆるいつくりに見えるんですけど、全くストレスを感じずに履いていただくためにあえてそうしています。こうした工夫のおかげで、この靴下にはリピーターの方がすごくいらっしゃいます。たとえば外反母趾の方は、『締めつけ感がちょうどよく、しっかりフィットしているので靴の中でもズレにくい。だから、たくさん歩いても疲れない』と言われたり、アトピーの方からは『履いてみてかゆくなかった』と言われ、さらに3足買いに来てくださったり」
最後にSDGsの取り組みを少し紹介した古川さんは、「言いたいことの30%くらいしか言えてない」と照れながらこう締め括った。
「とにかく履いていただけると本当に良さがわかります。当社に来ていただければもっと詳しいプレゼンもできますし、在庫も揃っておりますので、ぜひ一度遊びに来てください」
新素材と立体縫製でストレスを軽減する機能性Tシャツ
第2部の1人目は、「ICHORA+(イッチョウラ・プラス)」というブランド名で機能性Tシャツ「curefilo®(キュアフィーロ)Tシャツ」を開発した株式会社ズームの加々村征さんによるプレゼンテーションだ。
「こういうところに立つのは初めてなので、うまく喋れるかわかりませんが楽しみたいと思います」と少々はにかみながら話はじめた加々村さんだったが、澱みないプレゼンは分かりやすく、ちょっとした講義を受けているかのようだ。
両国の少し南に本社を構えるアパレル製造メーカーで、秋田県大館市に縫製工場と15の協力工場があること、国内の衣料品自給率は食品自給率より低い1.4%で、カットソーやジャケットなどアイテムに特化したメーカーが多いなか、ズームは帽子や靴以外はすべて生産することができるといった会社の紹介に続いて「ICHORA+」の成り立ちが語られ始めた。
「この『curefilo®Tシャツ』は、糸の開発から生地の編み立て、縫製による製品化までをすべて墨田区内にある企業が技術を結集してつくり上げました。まず1社目が、丸安毛糸さんです。ここは生地の元となる糸の会社で、自生する植物から抽出した『フィトケミカル』を練り込み、ストレス軽減や皮膚水分量を上げるといった効果が期待される『curefilo®(キュアフィーロ)』という糸を開発しました。これらについては、各種試験データをもとに確認されています」
そしてTシャツの柔らかな質感を見つめながら、話題は今注目の「リカバリーウェア」との違いへと進む。
「最近よく聞くリカバリーウェアは、鉱物を練り込んで血行を良くするものですが、キュアフィーロは植物の成分。たとえばストレスの指標となる唾液中のアミラーゼが、着用することで軽減されることが実証されています。そんな特別な糸を使って生地を編み上げた2社目が、フジサキテキスタイルさんという会社です」
しかし、その完成までの道のりは、従来のものづくりとは一線を画す異例のものだったと言う。
「通常、生地は既成の見本帳から選ぶものですが、これはあまりに特殊な生地でした。キュアフィーロを名乗るための混率など細かな制約があり、生地購入時に契約書を交わすという初めての経験をしたんです。まさに墨田の技術が、並々ならぬ覚悟で形になった一着と言えますね」
3社目が加々村さん率いるズームでの立体製法による製品化だ。同社では製品に仕上げる際、「製品洗い」という加工を施すのが大きな特徴となっているという。
「皆さんが着られている洋服というものは、一回洗うと絶対に縮むんですよ。 縮まないような服ってないんです。 たとえばTシャツの生地などは縮みが顕著に出ます。『curefilo®Tシャツ』は税込で9900円と高いですよね。それなのに一回洗って縮んでしまったら嫌じゃないですか。なので、この Tシャツはでき上がったときの寸法と、洗濯し終わった状態が同じ寸法になるように縦と横の洗ったときの縮率を計算して洋服をつくり、一度うちの会社で全部洗ってあります。そうやって限界まで縮めてからお客様に渡すので、購入後に縮むことは一切ありません」
生地はもともと長いロールの状態で売買されるが、その状態でも左右や生地の始めと終わりで縮率が違っているという。この道40年のズームはその経験と蓄積したデータから、洗い加工後にも狙った寸法に仕上げることができ、買ったときのままの形を維持できるのだそうだ。
「私はもともと薬剤師でした。それは、化学が大好きだったのと、人の健康の助けになることがしたかったからです。その私が今、洋服をつくることになって、自分にしかできないものは何かと考えたとき、この『curefilo®Tシャツ』に辿り着きました。これからは、生地に成分を練り込んで洋服にすることが当たり前の時代がやってくると思います。墨田区はメリヤスの街といわれ、メリヤスは伝統的な産業なのですが、こうしたハイテクを組み合わせることでどんどん進化させ、多くの人に健康を届ける洋服づくりをしていきたいと思っています」
プレゼンを終えた加々村さんが、繊維をリサイクルした「ICHORA+」のリーフレットを配りながら、最後に質問を募ると「アトピーの人にも良いですか?」という質問をいただく。
加々村さんは「リカバリーウェアの大半に乾燥を招くポリエステルの成分が入っているのに対し、こちらは綿とレーヨン(パルプ由来で保水力が高い)という自然由来の生地でしっとりしているんです」と回答。また耐久性を尋ねられた際には、「機能性ウェアには糸に成分を練り込んだものと、糸にコーティングをしたものの2種類があり、練り込んだタイプは半永久的に効果が続きます」と説明していた。
会場をやわらげるチョコレートテイスティングの効果
この日1部と2部の最後にチョコレートテイスティングを受け持ったのが、SUNNY CHOCOLATEの伴野智映子さんだ。
「私は今回認証いただいた皆さんの中ではかなり新米なのですが、最初にサニーチョコレートがどんな事業をやっているのか、すみだモダンに認証していただいた内容についてお話し、その後実際にどうやってチョコレートをつくっているのかを説明させていただきます。最後に、本日はチョコレートのテイスティングもご用意しているので、ぜひ皆さんに味わっていただけたらなと思います」とにこやかに挨拶。
伴野さんはポートランドを旅した際に出会ったBEAN TO BAR(※)のチョコレートづくりに感銘を受け、帰国後にダンデライオン・チョコレート・ジャパンに転職。チョコレートに7年半携わった経験を生かし、2023年に錦糸町でクラフトチョコレートショップを開業した。現在は京島の明治通り沿いにあるビルの4階に店舗を構え、大人から子どもまでみんなで楽しめるクラフトチョコレートをつくっている。
「クラフトビールとかクラフトジンとか、クラフトとつくものは大人だけが楽しむ嗜好品というイメージがあるかなと思います。 その中でチョコレートは子どもから大人まで誰でも楽しめるものなのに、ダンデライオン・チョコレート・ジャパンにいたときから『いいチョコレートだから味のわかる大人だけで共有したいとか、子どもに隠れて食べます』という方の声を聞くにつけ、何かもったいないなあという思いがありました。そこで自分がつくるときには、なるべく『子どもと一緒に分け合いたい』と思ってもらえるようなチョコレートにしよう、というコンセプトでやっています。それに付随して、チョコレートをつくるワークショップも、親子で楽しめるものをなるべく定期的に開催するようにしています」と伴野さん。
※BEAN TO BAR:カカオ豆の選定からチョコレートになるまでの全工程を、一貫して自社で行う製造スタイル。
自身で開催するイベントのほか、墨田区で行われているイベントにも積極的に出店している伴野さんの活動のもう一つの特徴は地域のものづくり企業とのコラボレーションだ。
曳舟にある東向島珈琲店とは同店の自家製ピーナッツバターを使ったチョコレートや、同じく同店で人気のレアチーズケーキのチョコレートトッピングで、曳舟の生ハム・サラミ製造工房Otis(オーティス)とはチョコレートサラミでコラボしている。ほか、チョコレートをつくる際に出るカカオの外皮(カカオハスク)は墨田区京島にある銭湯の「電気湯」で、バレンタインやホワイトデーに薬湯として使ってもらうことも。
伴野さんは、続けてチョコレートのつくり方を解説。その後、チョコレートテイスティングのための豆皿が配られると、参加者たちの表情もどこかほころんだように。
「ご試食いただくのはメインでつくっている『花』と『空』と『音』の3種類です。3種類とも材料はカカオ豆と素焚糖(すだきとう)という奄美諸島でとれるきび砂糖だけ。レシピは全部同じで、カカオ豆が 70%、残りの 30%がお砂糖っていう配合なのですが、それぞれ何か入っているのかな?と思うほど、違った味わいが楽しめますよ」と説明しながら、伴野さんが一つ目のチョコレートを配る。
「チョコレートを手にとったら、どんな香りがするかちょっと嗅いでみてください。その後にお口の中に入れたら、すぐにゴリゴリ噛むより、ちょっと飴を舐めるような感じで、舌の上でチョコレートを溶かしてあげると、溶けたチョコレートからふわっと口の中に香りが広がると思います。 最初に食べた印象から、香りが広がったとき、飲み込んだ後の余韻なんかも楽しんでみてください」というアドバイスを聞いた参加者は、大切そうにチョコレートをテイスティング。
すると、「本当にカカオ豆と砂糖だけでつくったのかと思うほど、いろいろな味を感じる」と、その奥深さに感嘆の声が飛び出した。2つ目を口に含むと「全く同じレシピとは思えない!」と驚く人が続出。すべてを食べ終えてからは、どの味が好きだったか感想を述べ合うなど、雰囲気が一気に和らいだ。質問も積極的に出るようになり、まさに伴野さんのめざす“チョコレートを通じたコミュニケーションで人々がつながった”瞬間が訪れた。
つくり手が話すこと、積極的になることの大切さ
福森さんによれば、このイベントは、「すみだモダン」が新しい認証を始めた2022年に、セメントプロデュースデザインが墨田区に『職人BAR』とのコラボレーションを提案して始まったという。
「やはりつくった人が一番語れるし、語らなければいけないので『当社ならそれを聞いてもらえる場を提供できます』とお話しして形になったのです」と話す福森さんは、参加者が真剣に耳を傾ける様子に「やはりつくった人が話すのは、大事だと思いました。工場見学などもありますが、なかなか行けるものでもないので、こうしたイベントでその一部を見ていただく機会をつくるのも良いのではないでしょうか」と、手応えも感じたようだ。
金谷さんは今日のイベントを振り返り、「今日お話しされている方もちょうど40代とか、後継世代の方がいらっしゃいましたが、墨田区には、こうした後継世代の人たちが次どうしていこうかと悩んでいらっしゃる方も少なくないと思います。今はちょうど転換期を迎えているので」とのこと。
さらに、こう語った。
「すみだの事業者さんには、区の手厚いサポートに慣れてしまって、『次は何をしてくれるのだろう?』とキッカケ待ちをしている人が多いように感じており、『この次はあれやりたいんだけど!』という人がもっと出てくると、地域循環経済は上がっていくのではないかと思っています。後継世代もその次世代も、また今の60代の人たちにも(笑)、私たちのような存在を使っていただいて、なんとか頑張っていってほしいなと思います!」とエールを送る。
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Photo: Sohei Kabe
Edit: Kazushige Ogawa / Hearst Fujingaho