墨田区の産業ブランド力を牽引する「すみだモダンブランド認証」
江戸から続く「ものづくりのまち」である墨田区では、東京スカイツリー®の誘致決定をきっかけに、すみだの知名度やイメージ向上のため、その産業ブランド力を国内外にPRするべく2009年より「すみだ地域ブランド戦略」をスタートさせた。
主要施策である「すみだモダンブランド認証」は、「ものづくりを通して、未来のスタンダードを創造し、人々の幸せを育む活動」を行なっている区内事業者を公募し、「すみだモダン」の4つの理念との合致度を基準に認証を行っている。
その理念とは、未来への約束を果たす「持続可能性」、知恵を集めて新しい価値を創る「共創性」、粋な視点と遊び心を大切にする「独自性」、そして様々な人の幸せなつながりを育む「多様性」だ。
認証された事業者は「すみだモダンブルーパートナー」に認定され、専用のロゴマークを使用できるほか、展示会や各種媒体などで優先的な取り扱いを受けることができる。また、墨田区とともに「ものづくりのまちすみだ」の産業を盛り上げ、ブランド力向上のための取組を行っていく。
2025年度の「すみだモダン」は7月から8月にかけて公募し、10月の審査を経て6つの活動と商品が認証された。12月24日に認証式が行われたのは、墨田区が運営する産業共創施設「SUMIDA INNOVATION CORE」だ。
会場には、セメントプロデュースデザインの遊び心あるデザインで、今年度の認証事業者紹介ブースが並んでいた。来場者は各ブースをまわり、展示された商品や活動内容について事業者から積極的に話を聞くなど、なごやかな雰囲気に包まれていた。
山本区長と水野理事長による挨拶と祝辞
「それでは、ただいまから『すみだモダン2025ブランド認証式』を開催させていただきます」と、すみだ地域ブランド推進協議会の石岡克己事務局次長(墨田区産業振興課)の司会で始まった認証式。
まずは山本亨墨田区長による挨拶だ。
「本日、『すみだモダン2025』の認証活動と商品がお披露目となりました。認証された6事業者の活動とその関連商品は、いずれも本当に墨田区の産業・ものづくりのブランド力向上にふさわしいものとたいへん誇りに思います。私自身もしっかりと、その魅力を発信していきたいと思っています。 認証を受けられた皆さま方に心からお祝いを申し上げます。認証された皆さまの活動と関連商品は、2026年の1月から3月にかけて、東京駅近くの『グッドデザインストア』と業平の『コトモノミチ』で展示販売をし、区としても積極的に事業者の皆さんの販路拡大支援に努めてまいります」
祝辞に続いて述べたのは会場となった「SUMIDA INNOVATION CORE(SIC)」の紹介だ。
「ここSICは、墨田区が運営する産業共創施設です。スタートアップを目指す事業者がここに相談に来れば、われわれが墨田区のものづくりの技術や歴史、文化を含め、本日お集まりいただいている皆さまをはじめとする事業者の方々とのマッチングをし、夢を実現したり、社会に貢献できる製品をつくったりできる墨田区の産業振興の拠点です。『すみだモダン』とともに、墨田区のこうした取り組みも、さらに世に広めていきたいと思っておりますので、ぜひ今日を機会に、皆さま方にもお力添えとご協力をいただけたら幸いです」
続いての挨拶は、「すみだ地域ブランド推進協議会」理事長および「すみだモダンブランド認証審査会」審査員の水野誠一氏(株式会社IMA代表取締役)だ。
「すみだモダンの初期から携わってきた数少ない人間の一人として、簡単にご挨拶させていただきたいと思います。この活動のきっかけは、前区長の山崎さんから墨田区のブランディングをしたいとご相談を受けたことでした。当時は全国の市町村がブランディングをしはじめたというタイミングでした」と水野氏。
そして当時を振り返りながら、こう続ける。
「そこで山崎さんには、『私のところにも、多くのところから声がかかっていますが、大体3年もやるとやめてしまうのがほとんどです。ですから墨田区がやる際には、最低でも、10年はやってください』と申し上げました。墨田区には江戸時代からすばらしい職人さんがいらして、技術も高いところでしたが、戦後の経済が発展する中で、そのほとんどが下請けの仕事に集約されていきました。ブランドがないため、世界でのすみだの認識度は低かったのです」
さらに水野氏は、活動の原点について次のように述べる。
「そこでブランディングをやると同時に、その技術を世に出せるものを集めようということから始まりました。 そして山本区長になって、この活動をもっと進化させましょうと引き継いでいただいています。この活動は、続く20年に向けてそれを支える理念をもっと深めていかなければいけません。そんななかで今回は、大変ユニークな活動を選ばせていただいたと考えています。 皆さんには、今日が出発だと思ってますます活動を深め、進めていただきたいと思います。本日の認証を心よりお祝いを申し上げるとともに、私のご挨拶に代えさせていただきます。おめでとうございました」
「すみだモダン2025」の認証事業者と活動内容
「すみだ地域ブランド推進協議会」理事および「すみだモダンブランド認証審査会」審査員の紹介に続いて、いよいよ2025年の認証活動の発表だ。新たに認証された活動は以下のとおり。
事業者名/株式会社ズーム
https://zoomproject.co.jp/
認証活動名
国産天然植物由来成分による新素材「curefilo®(キュアフィーロ)」を使用した機能性ウェアを区内 3社で共創する活動
認証商品
curefilo®(キュアフィーロ)Tシャツ
活動概要
「メリヤスのまち」墨田区の伝統を受け継ぎ、区内3社で機能性 T シャツを共創する活動。国産の天然植物由来成分を練り込んだ糸「curefilo®」を使用した生地を採用。この生地は、区内2社 (丸安毛糸株式会社、フジサキテキスタイル株式会社) が開発した抗酸化作用やリラクゼーション効果が期待される機能性新素材である。縫製面では立体裁断で心地よいフィット感を、首まわりがよれにくい仕立てで長く快適な着心地を実現。地域の連携により、環境にも人にもやさしい機能性ウェアを生み出している。
事業者名/SUNNY CHOCOLATE
https://sunnychoco.base.shop/
認証活動名
カカオ豆の選定から行う独自のチョコレート製造販売とワークショップや地域との連携により世代をつなぐ活動
認証商品
クラフトチョコレート
活動概要
区内で唯一、カカオ豆からチョコレートになるまでの全工程を一貫して製造するビーントゥーバーにより、チョコレートを販売。「花」「空」「音」「豆」という商品名は、子どもにも読みやすく配慮した名称。チョコレートを通じて子どもと大人が一緒に楽しめる場づくりのため、定期的にワークショップを開催。区内飲食店とのコラボや、電気湯とは製造の過程で出るカカオの外皮を使った「カカオ風呂」を企画するなど、地域協働と循環を志向したものづくりを進めている。
事業者名/有限会社ヒロタグラスクラフト
https://www.edokiriko.net/
認証活動名
職人の技を体感できる工房兼店舗「すみだ江戸切子館」の運営やグラス開発で伝統技法を現代に継承する活動
認証商品
江戸切子 温熱用クリアオールドグラス (ダイヤに菊繋ぎ紋様・ダイヤに七宝紋様)
活動概要
伝統工芸である江戸切子の製造・販売を行うとともに、職人の作業風景が見える工房兼店舗「すみだ江戸切子館」を運営。「江戸切子 温熱用クリアオールドグラス」は、江戸切子の原点に立ち返り、透明なガラスにカットを施した。70℃の温度差にも耐えられる温熱用硬質ガラスは、削りも磨きにも職人の高い技術と手間を要する。工房では「すみだマイスター」にも認定された職人を中心に、若手職人の育成、伝統技術の継承に努めている。
事業者名/株式会社片岡屏風店
https://www.byoubu.co.jp/
認証活動名
伝統の屏風技法を活かした、マグネット型の折りたためる節句飾り「扇 -SENN-」を開発する活動
認証商品
折りたためる節句飾り「扇 -SENN-」
活動概要
小さな屏風に人形を直接飾ることのできる節句飾り「扇 - SENN-」。インテリアのテイストや消費者ニーズの変化により需要が縮小する近年、デザイナー秋山かおりさんとの協働で、子どもの成長を祈願する習慣を現代の生活に取り入れやすいよう開発された。屏風の和紙蝶番を生かし、裏面も和紙貼りのため日常的に 利用可能。人形はマグネットで取り外しできるため、写真を組み合わせたりと親子で飾りつけを楽しめる。
事業者名/有限会社フルカワ
https://www.ijp-furukawa.com/
認証活動名
高度な独自技術により土に還る和紙糸を 78%配合した足にフィットする「和紙足袋靴下」をつくる活動
認証商品名
WASI WASI 和紙足袋靴下
活動概要
土に還る素材、和紙糸を78%という高い配合率で使用した「WASI WASI 和紙足袋靴下」。切れやすく張りがある和紙糸は、配合率が高いほど編み上げるのが難しいが、独自の高度な技術で編みたてることに成功した。立体的で足にフィットした構造を採用し、履き心地を追求。天然由来成分である和紙糸は、低環境負荷であることに加え、抗菌・防臭・調湿効果にも優れており、多くのリピーターを生むなど消費者から支持を集めている。
事業者名/黄金湯/BATHE YOTSUME BREWERY
黄金湯:
https://koganeyu.com/
BATHE YOTSUME BREWERY:
https://batheyotsumebrewery.jp/
認証活動名
醸造所でのオリジナルビール開発やサウナ・宿泊施設の運営など時代に合わせて銭湯文化を継承する活動
認証商品
BATHE YOTSUME BREWERY クラフトビール
活動概要
自社製造のビールを提供するビアバー、本格的なサウナ、宿泊所など新しい施設・商品開発により、現代に沿った銭湯文化を継承する活動。近隣事業者やアニメ等との異業種協業にも積極的で、独自の取り組みにより人気サイトで全国1位の評価を得るなど注目を集める。2023年には「湯上りの最高のひとときを醸造する」をコンセプトに「BATHE YOTSUME BREWERY」を創業。製造されるクラフトビールは、銭湯を訪れる新しい動機付けにもなっている。
認証事業者を代表して、株式会社ズームの代表取締役社長・加々村さんに認証盾が授与され、記念撮影が行われた。この盾は、廣村デザイン事務所と「すみだ地域ブランド推進協議会」の廣田理事の協力でつくられた特別なもので、素材には手すきの和紙を使用。和紙の端の形状が一枚一枚異なるため、印刷には細心の注意が払われている。人の手の温もりが感じられる味わい深さが特徴だ。
2025年の認証活動についての各審査員による講評
「すみだモダン2025」は、8名の認証審査員(すみだ地域ブランド推進協議会理事/すみだモダンブランド認証審査会外部招聘審査員)が協議の上決定した。認証式に出席した各審査員の評をお伝えする。(※1)
※1/廣田尚子氏(有限会社ヒロタデザインスタジオ 代表取締役)は所用により欠席
田中一雄 副理事長兼審査員長(株式会社GKデザイン機構 代表取締役社長)
「認証を贈られた皆さま、誠におめでとうございます。すみだブランドは『あたらしくある。なつかしくある。』ということで 最初の10年をやってきました。それは江戸の文化、ものづくりの魂というものを今に活かすというところでの活動でした。この魂は今日認証を受けられている企業の皆さまにも引き継がれている部分があるかと思います」と祝意を述べたあと、田中氏はこう続けた。
「ただ、時代が変わっていく中で、ものづくりだけではなく、社会の中でどういう企業活動や地域活動を行っているかが重要になってきました。そのことが結果的に、墨田区としての産業競争力向上につながるからです。その意味で私たちは、ものづくりの背景にある活動の価値をまず評価し、その上でモノそのもののクオリティ、オリジナリティ、クリエイティビティをきちんと評価し、さまざまな議論を重ねて審査しています。 今回選ばれたのは魅力あるモノ、人にアピールするモノ、社会から素晴らしいと言われるモノをつくっておられる方々です。今日はクリスマスイブですが、 皆さんにとっては素晴らしいクリスマスプレゼントになったのではないかと思います」
吉田誠 監事兼審査員(東京東信用金庫 理事長)
「今回、『すみだモダン 2025』に認証されました企業の皆さん、本当におめでとうございます。 どの活動も非常に興味深い取り組みでした。まさしく『すみだモダン』が定義する活動にふさわしい素晴らしい取り組みだと思います。今年度の認証では、区内での連携を実践されている活動や、自然由来の材料の使用・本来廃棄されるモノの再利用など環境に配慮した活動、伝統・文化・技法を未来に継承する活動が多く見られました」
そして、今後への期待と支援について次のように続けた。
「大企業が得意とするような手頃な価格の量産品とは違い、認証事業者の皆さまのように、自社の技術やアイデアを駆使した付加価値の高い製品サービスを提供することが、中小企業の競争力の強化につながるものと改めて実感しております。この墨田区において、皆さまが素晴らしい活動をしていることを誇らしく思います。 私ども東京東信用金庫は国や自治体、大学、公的支援機関、全国の信用金庫など、さまざまなネットワークを持っております。 皆さまの素晴らしい活動をこのネットワークを活用して、精一杯応援をしたいと存じます。 本日、認証されました皆さま方の今後のご活躍とご発展をお祈りいたしまして、私からの講評とさせていただきます。 本日は誠におめでとうございます」
植田憲 審査員(国立大学法人 千葉大学教授、デザイン・リサーチ・インスティテュート センター長)
「私ども千葉大学は5年ほど前に墨田区文花の地に『墨田サテライトキャンパス』を開設させていただき、『デザイン・リサーチ・インスティテュート』という、千葉大学の歴史あるデザイン領域によるデザインに関する教育研究活動をさせていただいております。その一環で、私はこの審査会に3年前から審査員という形で入らせていただいて、墨田区の皆さまの底力といいますか、ものづくりをされる力、未来を見据えていく力、実現されていく力には、本当にすごいものがあるなと感じております。 審査員という形ではあるものの、実は僕が学んでいるというというくらい、皆さまの努力の素晴らしさを痛感しています」
そして、今後への期待と連携について次のように続けた。
「この事業ももう15年ほどということになるかと思いますが、皆さまもそういった墨田区のトップのものづくり、あるいはことづくりの認証を受けられました。今度は今までとはまた違う形でぜひ、墨田区の活気を牽引していってくださればと思います。千葉大学も私もまだ若輩者ではございますが、ぜひとも何らかの形でご一緒させていただきながら、墨田区の本物を育てていくこと、活気をつくることを共にやらせていただきたいと考えております。本当に今日はおめでとうございます」
坂口真生 審査員(GENERATION TIME株式会社 代表取締役/エシカルディレクター)
「皆さん、本日はおめでとうございます。さきほど水野理事長が時間軸のお話をされたので、時間軸の話をベースに少しお話させていただきたいと思います。 私はエシカルディレクターという名前で活動しているんですが、エシカルというのは時間軸があまりなくて、概念や道徳的なことなんですね。他方、ディレクターというのはビジネスサイドの話なので、まさに今ビジネスをどういうふうに回していくかというマーケティングの仕事です。私はこの 2つの視点で仕事をさせていただいているわけです。エシカルな観点から100年、500年、1000年のスパンで考えたアドバイスをし、ディレクターとして今のビジネスをどうマーケティングしていくかを考えながら、年間100以上のプロダクトを審査させていただいています。最近のこの流れでいうと、日本の中でもサステナビリティなど、落としどころの質が上がってきたなと思っています」
そして、今回の審査を通じた評価と期待について、次のように続ける。
「そういう中で今回の『すみだモダン』の審査をさせていただきながら、数百年という3桁の時間軸の考え方と、マーケティングビジネスのセンス、この両方をきちんと持たれている皆さんがそろっているのではないかと感じました。さらに言えば、世界中の人に対して、どの落としどころで、どこを強化するかを突き詰めれば、より伝わる形で届けることができ、 リピーターになったり、友達に紹介してくれたりという広がりを見せるのかなということを考えております。 今日は認証事業者の皆さんの顔や商品をしっかりと見ることができたので、すごく期待をしておりますし、何かできることがあればと思っております。 本日は本当におめでとうございます!」
髙橋正実 審査員(MASAMI DESIGN代表取締役)
「私は墨田区に生まれ育ったデザイナーです。“地域ブランド”という言葉の発祥地は、ここ墨田区です。そして、ものづくりはただお金を生み出すために存在しているのではないと私は思っています。ものづくりは人を育てます。人と人とがつながりながら、人への想いをもって取り組むことで世の中を良くしていくという精神が墨田区は昔から根付いている場所です。昨今はモノだけでないデザインも世の中で広く認識されている時代ですが、ここ墨田区では先人たちから受け継いできたそのような感覚が、ただモノをつくって売ることだけではなく、ものづくりや産業がどのような歴史の上に存在し、それらがいかに地域へよい形で連動するかという意識につながって、今日の「すみだモダン」ブランドへと続いているのだと思います」
そして、2025年の認証事業者への想いを、次のように続けた。
「今年認証された皆さまの活動を見ていると、墨田区で昔から共有されてきた考え方が、今ようやく時代とやっとまた合致する時が来たのだなと感じています。皆さんがまさに今の墨田区を体現されていらっしゃるなと思いながら、ますますのご活躍をお祈りいたします」
郡司剛英 理事兼審査員(墨田区産業観光部)
「皆さんこんにちは。6事業者の皆さま、まずは認証おめでとうございます。 私はどちらかというと行政の人間ですので、審査というよりも行政的な、産業振興の観点から墨田区の産業への寄与度、あるいは分野ごとの牽引力という部分、それから最後は認証されたことによる波及効果をいろいろ考えさせていただき、その中で私が審査に携わらせていただきました。初期のモノを中心とした『あたらしくある。なつかしくある。』という審査基準から活動の認証へと変わってきた中で、今回認証された6つの事業者の皆さまはまさに、『こころ、ゆさぶる。』活動をされていたと思います。 本当におめでとうございました」
モノの背景にある物語こそ、選ばれる条件となる
「すみだ地域ブランド推進協議会」理事長兼「すみだモダンブランド認証審査会」審査員の水野誠一氏
講評の締めくくりは水野理事長だ。まずは、自身の経験を踏まえ次のように語った。
「各審査員からいろいろなお話がございまして、私はちょっとそれを取りまとめるような話になってしまうかもしれません。私は前職で西武百貨店の社長をやったりして、いろいろ苦労もしてきたのですが、その中で店づくりとかものづくりということに一番エネルギーをかけてきました。ロフトという業態をつくったときもそうだったのですが、それまでの常識をぶち破って、新しい時代の技術や小売のあり方に対して絶えず挑戦していたのです。そこで感じているのは、モノというのはこの世の中に溢れているということです。その中で皆さんのモノが選ばれる条件とは何かということをぜひ考えていただきたい。 それは“物語”なんですね」
会場を見渡しながら、モノの本質についてさらに言葉を重ねる。
「モノには必ずその背景に語る部分があります。どういうプロセスでこのモノが生まれたかという、そこがすごく重要なのです。 先ほどズームさんとお話をして2人で盛り上がっていたのですが、例えば白いTシャツのような一番シンプルな商品を極めることが、どれだけ難しいかということなんです。そこに挑戦をしていただくことが、これからの皆さんに課せられたテーマだと思います。ヒロタグラスクラフトさんも、江戸切子の世界は本当に極めてこられたのですが、その中で色を使わない江戸切子というものをつくられたというのも大変な挑戦ではないかと思います。また、片岡屏風店さんは一般的な屏風のイメージを覆し、節句というテーマで新しいプレゼンテーションを考えました。フルカワさんも、和紙という素材を使って機能性があり、環境的な意味ももった商品をおつくりになりました。 それから黄金湯さんが銭湯に地ビールという付加価値を新たにつけられました。サニーチョコレートさんのビーントゥーバーという業態も非常に意義深いものです」
そして最後に、「すみだモダン」の本質について力を込めて締めくくった。
「皆さんには認証を受けたことをきっかけとして、ここからさらにものづくり、そして物語をつくる挑戦をどんどん重ねていってほしいと思います。『すみだモダン』というのは、終わりのない闘いです。それはいつの時代になっても新しいものでなければいけない。これは使命だと思っています。しかし、一方ですみだが持っている文化、歴史、これを忘れては、新しいものに挑戦する武器にはなりません。“しんか”という言葉に二つの意味があります。新しい時代にどんどん進んでいく進化。 それともう一つは深いという字を書く深化です。その“二つのしんか”を同時に追求できるのが墨田区の環境ではないかなと思っております。墨田区には江戸の時代から培ってきたものづくりの歴史があるので、この環境を活かしながらぜひ皆さんのテーマに対して、これからも挑戦をしていただきたい。 本当にこれからがスタートですので、ひとつよろしくお願いしたいと思います。 おめでとうございました」
認証をうけた事業者の想いと今後の展望
最後に、認証された事業者を代表して株式会社ズームの代表取締役社長・加々村さんと有限会社フルカワの代表取締役・古川さんにお話しをうかがった。
加々村さんは、もともとOEMをやっていた自社がこれからオリジナルブランドを立ち上げるなら、何かメッセージがなければと考え、植物由来の有効成分を練り込んだ糸「curefilo®」を使ったリラックスウェア、「ICHORA+」というブランドを立ち上げた。
「服の力で人の健康やより良い生活に貢献するというコンセプトに行き着いた時、これこそニットの街、メリヤスの街すみだを代表するモノではないかと思って応募しました」と力強く話してくれた加々村さん。
認証された感想を尋ねると、「われわれがやってきたことが評価されたのは、非常にうれしいことです。本社の人間だけでなく、秋田の工場の人たちも喜んでくれています。自分たちがやってきたことは間違いではなかったと、背中を押してもらった感じです。今朝も朝礼で『すみだモダン』の認証式があると話したら皆喜んで『いってらっしゃい』と送り出してくれました」と笑顔で答えてくれた。
「昔ながらのメリヤスの技術と新しいテクノロジーが合わさることで、既存の会社同士であってもまた新しい文化がつくれるんだということを、この認証をきっかけに多くの皆さんに知っていただける機会になったかと思います。墨田区はご覧のとおり、色々な業種があり、区の方でも色々と起業を応援してくれています。事業者同士が顔を合わせる機会を活かして、新たなモノを生み出しイノベーションを起こさなくては!と思っています」
有限会社フルカワは、創業から約70年の歴史があり、長らくOEMを専門としてきた会社。自社でつくったものを世に出したいという思いから、和紙糸を78%という高配合率で使用した「WASI WASI 和紙足袋靴下」を開発した。
「きっかけはコロナのときに和紙糸でマスクをつくったことでした。そのとき肌に密着しても痒くならないと言われていたことを思い出し、これを使って内製できる和紙靴下に行き着いたのです。和紙は切れやすいものですが、うちのような零細が靴下をつくるとなれば、大手ができないことをやらねば太刀打ちできませんから、思いきって78%まで配合してみたのです。すごく難しいため生産の回転率は上げられず、大手さんが1日仮に50足つくるところを、うちはせいぜい15足ぐらいしかできません。その代わり、履いた時のフィット感や心地よさにこだわることにしました」と、開発秘話を教えてくれた古川さん。
今では多くの年配女性がリピーターとなり、10足買って友人にプレゼントするという人もいるそうだ。また、アトピーの方の間で「痒くなりにくい靴下」という口コミが広がり、購入につながっているとのこと。
「とても愛着がある墨田区から認証いただけたことを、非常に光栄に思っています。『すみだモダン』はネームバリューがありますから、この認証がすごく効果がありそうです。次の催事では、このロゴマークを並べながら陳列していこうと楽しみにしています」
Photo: Sohei Kabe
Edit: Kazushige Ogawa / Hearst Fujingaho