co-creation
共創性

「つたえる」ためのイベントがもたらしてくれた「新たな気づき」

2023.02.20
新生「すみだモダン」の3つの柱、「つながる」「つくる」「つたえる」——このうち3つ目の「つたえる」には、公式サイト運営や書籍発行でのプロモーション、オンラインストアでの販売といった活動のほか、展示会立案・開催などのイベント活動がある。2022年12月10日から18日まで東京都立川市にある複合施設「GREEN SPRINGS」で行われた墨田区主催のポップアップイベント「すみだDAY-LOCAL by すみだモダン」を通して、その様子を覗いてみよう。

クオリティも規模も信頼の"すみだモダン"主催イベント

ポップアップイベントの良いところは、商品の即時販売という営業面での利点もあるが、一般の生活者に商品を実際に手にとって見てもらい、使用感や感想などを直接聞けることだ。

墨田区では、かねてから全国に先駆け、こうしたポップアップや展示会に出展することに大きな価値を見出し、区内の質の高い商品を「すみだモダン」としてブランド認証してきた。ブランド認証を受けられれば、区が主催する催しで自社商品を扱ってもらえるというのは、区内事業者にとって最も大きな特典というわけだ。

「墨田区では年2回ほど、こうしたイベントを主催しています」と、墨田区産業振興課の児玉裕和さん。

「その理由は大きく分けて2つあります。ひとつは区内外を問わず広く一般の人に向けて、『ものづくりのまち すみだ』の魅力を発信するため。もうひとつは、区内事業者への支援です。区内には、数少ない社員で日々『ものづくり』に邁進している事業者もいます。そのような方がこうしたイベントに参加するとなると、その期間は製造現場が滞りがちになってしまうだけに、なかなか参加に踏み切れないという声がありました。であるならば、私たち行政がそうした方々に代わって、PRをしていこうと考えたのです」

小粋でひねりの利いた、親しみやすいイベント内容で集客

今回の会場となった東京都立川市の「GREEN SPRINGS」は、2020年にオープンしたショップや美術館、ホテルやイベントホールが集まるおしゃれな複合施設だ。

児玉さんたち産業振興課の職員はこの会場での開催にあたって、早速どのような人々が集うエリアなのか入念な下見を行ったという。

「"郊外の都会"ともいえる立川には、近隣に住宅地も多く、幅広い年代の方が『GREEN SPRINGS』を訪れていました。特に、広い敷地内には緑の植栽も多く、公園のような憩いの空間も広がっています。思い思いに時間を過ごすための散策やショッピング、食事に訪れている方々を観察すると、私たちが提案する『すみだモダン』ブランドの価値観やクオリティにも興味を持っていただけるのではと思いました。一方で、従来の『行政が区内事業者に代わってPRをする』ところから一歩踏み出し、週末だけでも区内事業者に実演やワークショップをやってもらえれば、新たな発見や効果が見込めるのではという可能性をこの場所に感じました」と児玉さん。

これらの結果を踏まえながら、今回初となる挙手性の公募を事業者に対して行うと、墨田区内の13の事業者の参加が決定した。うち11の事業者ブースには事業者の似顔絵をアイコンにした親しみやすくユニークなブースサインが用意された。そこに参加事業者が考えた自己紹介を兼ねた楽しいキャッチコピーが印字されるなど、ひねりの利いた工夫が光っている。

加えて来場者にはコーヒーの味に定評のある墨田区の2つの飲食店が「ふるまいコーヒー」用にこだわりの自家焙煎コーヒー豆を提供。小粋で親しみやすい内容でイベントに臨むことになった。

トントントントン…。イベント開催日当日、複合施設「GREEN SPRINGS」の遊歩道を歩いていると、心地よいトンカチの音が漏れ聞こえてきた。その音に誘われるようにイベント会場に足を運ぶと、部屋いっぱいに芳しいコーヒーの香りが満ちている。

中央に置かれた特注の長テーブル(通称:コタツみたいなテーブル)では子どもたちが夢中で革小物を製作中だ。その様子を楽しそうに見守る保護者たち。職人の見事な手捌きに見入る人や興味深げに展示品を手に取る人、その奥ではふるまいコーヒーを片手に談笑する人々の姿があり、会場は温かな空気に包まれている。

絶え間なく訪れる来場者は親子連れやカップル、友人同士と世代も性別もさまざまだったが、このイベントに興味を持っているという点で共通していた。

笠原スプリング製作所の笠原克之さん

利用者の生の声が聴ける貴重な機会

「こういう形で自分がブースに立ってお客さんに説明するのは初めての体験でした」と話す笠原スプリング製作所の笠原克之さん。

「『てのひらトング』の利点や自分がこだわって作ったポイントをうまく説明して販売につながるのは嬉しいですし、話していると思いがけず別の使い方のアイデアを教えてもらえたりもしましたよ」と嬉しそう。

石宏製作所の石田明雄さん

医療用のハサミを改良して作った『職人が大切な人に贈ったはさみ』を紹介していた石宏製作所の石田明雄さんは、「積極的に話を聞いてくださる方が多いですね。高品質なものへの感度が高いという印象です。手に取ってもらって、いい切れ味と感動してくださるととても励みになるし、イベントに参加したからこその体験です」とその思いを語ってくれた。

宇野刷毛ブラシ製作所の宇野三千代さん

馬の尻尾のなかでも一際柔らかな産毛を鮮やかな手さばきでブラシに植え込む実演をしていたのは宇野刷毛ブラシ製作所の宇野三千代さん。手植えブラシの伝統技術の継承者で、普段は百貨店などで実演する機会も多い人気の職人さんだ。

「こうしたブラシ自体を目にすることが少ない方に見ていただくのは貴重な経験でした。ですからまずは肌触りや使い心地にこだわった手入れブラシの素晴らしさを知ってもらうことがとても大事だと思って」と、意欲的にその魅力を発信していた。

アトリエ創藝館の大石智博さん

「我々の仕事に興味を持ってもらえるだけでありがたいよね」。休めることなく毛筆を動かしながら、提灯にダイナミックな江戸文字を書いていくアトリエ創藝館の大石智博さんは、参加の理由をこのように語ってくれた。

「たとえばお相撲の番付表ってあるでしょう? 隙間なくみっちり文字が書かれているのにはお客さんが隙間なく入りますように、お客さんで埋まりますようにっていう思いが込められているんですよ。験を担いでね。江戸時代に下町で生まれた江戸文字って、人のために書いてあげる文化だったの。こういうことを聞いてくれる人がいるうちは、語り伝えていきたいんです」

事業者にも参加者にも大好評だった体験イベント

サクラワクスのミニ財布づくりのワークショップは子どもたちに大人気で、和気あいあいとした雰囲気のなか、たくさんの参加者で長時間にぎわっていた。

代表の和久真弓さんは「実際に職人の道具を使って、本物ってこういうことなんだと知ってもらうだけでも価値がありますよね。楽しそうに、集中して作業してくれるのを見るとすごく嬉しかったです。出来上がったものは革なので長く使えますしね」と、コロナ禍で自粛が続いていたなか、久しぶりに実行できたワークショップに満足そうな笑みを浮かべていた。

サクラワクスの和久真弓さんが行った、ミニ財布づくりのワークショップは大人気。参加した子どもたちもハンマーを片手に夢中に制作に取り組んでいた

もうひとつ行列が絶えなかったのがふるまいコーヒーのブース。ハンドドリップ専用のポット「kaico cupPot」で次々とコーヒーを入れていたのは昌栄工業の昌林賢一さんだ。

普段は工場で真摯に機械と向き合っている昌林さんは展示会初出展にして初接客、しかも人前で初めてお客さまにコーヒーを入れるというところまで初めて尽くしのイベントだった。注ぎ口に金属加工の技術が施されたドリップポットは、まっすぐに湯が落ち、狙った場所にドリップしやすいのが大きな特徴。実演で入れたお客さまに振る舞ったコーヒーは美味しいと大好評だった。

昌栄工業の昌林賢一さんは、お客さまにコーヒーを振る舞いながら商品の特徴を説明した

「2週末に延べ415杯のコーヒーを入れたことで自社製品の良い点はより深く、悪い点はそれをカバーする方法を見つけることができたので、なんらかの形で生かしたいと思っています」とイベント参加を振り返った。

「やはり経験しないと見えてこない価値がありますね! 今回すみだの皆さまとご協力いただいた方々に良い機会をいただき、素晴らしい経験ができたことを本当に感謝しています」。貴重な経験への謝辞を述べた昌林さんは、最後にこう締めくくった。

「2週にわたって同じ方が訪ねて来てくれたことが嬉しかったです! おひとりファンが増えました!」

昌栄工業のハンドドリップ専用のポット「kaico cupPot」」

9日間にわたったGREEN SPRINGSでの今回のポップアップイベントは、来場者数も売上高もこれまでの最高記録になったという。

「すみだモダンブランド認証は、区内の質の高い商品を掘り起こし、磨き上げ、まとめて発信するというプロモーションを行う事業です。今回は初の試みとして、区が主催するポップアップイベントに区内事業者を募集して実施し、大きな成果を得ることができました。今後は、このようなプロモーション活動が区内事業者同士の連携でも実現し、それを区が後方支援できるような形になるといいですね」と児玉さん。

墨田区が今後新たに運営する問題解決と提案・自社PRの場、「すみだモダンコミュニティ」では、多くの事業者が自分たちのやりたいことを持ち寄り、同じ目的を持つ事業者同士でつながり、区がそれを支援することで実現を目指していくという。

すみだモダンブランド認証事業と並び、墨田区のものづくりブランド力を向上させていくための主要事業「すみだモダンコミュニティ」。その動向に今後も注目していきたい。

展示販売ブースに立ち、一日実演を行った墨田区の事業者の皆さん。イベント終了後には、みんなで記念撮影
Text: Masami Watanabe
Photo: Sohei Kabe
Edit: Katsuhiko Nishimaki / Hearst Fujingaho
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