すみだモダンコミュニティとは?
はじめに、「すみだモダン」について、ここで改めて紹介したい。
「すみだモダン」とは、「ものづくりを通して、未来のスタンダードを創造し、人々の幸せを育む活動」を示し、墨田区はこの活動を増やしていくために、区内の産業、ものづくりをブランディングしながら各種プロモーション事業を展開している。
「すみだモダン」の根幹には「未来への約束を果たす持続可能性」「知恵を集めて新しい価値を創る共創性」「粋な視点と遊び心を大切にする独自性」「様々な人の幸せなつながりを育む多様性」という4つの理念がある。これらを満たすと認められた活動(関連する商品があればそれも含めて)はすべて、「すみだモダン」としてプロモーションの対象となる。
では「すみだモダンコミュニティ」とはどのようなものなのか。
この言葉が登場したのは2021年の「すみだモダン」リブランディング時だ。「すみだモダン」の対象がモノだけでなくコトにまで広がったとき、区は事業者間でつながることができるコミュニティの発足を宣言していた。「すみだモダン」を活性化させるためには、区役所が商品を認証するといった“既存のものを掘り起こす”活動だけではなく、事業者と同じ目線に立って、ともに活動を盛り上げることで、“ないものを生み出す”必要を感じていたからだ。
産業振興課の児玉裕和さんは言う。「『すみだモダンコミュニティ』は、区内の事業者と墨田区がパートナーシップを組み、ともに『ものづくりのまち すみだ』のブランドをPRしていくためのつながりの場です。多くの事業者が自分たちのやりたいことを持ちより、同じ目的を持った事業者同士のつながりを大切にしながら、区がそれを支援することで新たな『すみだモダン』の創出につなげていきます」
このコミュニティへは、個人・団体・企業を問わず、すみだモダンの理念に共感し、ほかの事業者と一緒に活動をしてみたいという熱意があれば誰もが参加可能となっている。事業者の「問題解決と提案・自社PR」の場として活用することにより、自主イベントの企画や、催事・展示会への共同出展、新商品の開発など、誰かとつながることで達成できるかもしれないテーマを自由に持ち込むビジネスマッチングの場ともなる。
児玉さんが続ける。「事業者さんにやりたいことを教えてくださいと言っても、あるいは新しいものを誰と作りたいですかと聞いても、いきなりではなかなか難しいと思うんですね。そこでコミュニティの立て付けも2つ用意しています。ひとつは事業者さんが商品やサービスの開発など、具体的に取り組みたいテーマを『この指とまれ方式』でいろいろな事業者さんに関わってもらう『テーマコミュニティ』、もうひとつはコミュニティの事例や動向を知りたい、あるいは区内企業の講演を聞いてみたいといったニーズに単発で応える『イベントコミュニティ』です。コミュニティの内容はそのほか自主イベントの企画や催事・展示会への共同出展、SDGsに関する連携事業、勉強会の実施など、テーマに基づいたディスカッションや、情報交換やセミナー、交流会など、さまざまな広がりが期待されます」
「すみだモダンコミュニティ」に参加した事業者はもれなく「すみだモダンオープンパートナー」となり「すみだモダン」のロゴマークの使用が可能となる。先の2つのイベントへの参加のほか、メールマガジン「こころ、ゆさぶる。」通信の受信や、すみだモダン公式サイト(本サイト)で発信される取材記事「STORIES」へのコメント閲覧・投稿や他事業者への事業連携の相談もできる。
すみだモダンの新しい歴史の目撃者へ
オープンパートナーはイベント実施日現在で30社。そのうち20社がこの日、すみだリバーサイドホールで行われた第1回すみだモダンイベントコミュニティに参加した。
会場が700名も収容できる大きなホールであった理由を、墨田区産業観光部産業振興課長の瀬戸正徳さんの挨拶から知ることができた。
「実はこの会場にこだわっていました。大きなところで最初は小さく始めて、このコミュニティというのを広げていって、いずれ回を重ねていったらここがいっぱいになるという願いを込めているのです。すみだモダンコミュニティがまだ何ものかわからないのに、今日ここへ来てくださった皆さんはとてもアドベンチャーな方々だなと思います。ありがとうございます」。
ユーモアたっぷりの瀬戸さんの挨拶に会場が笑いに包まれる。
「このコミュニティは区役所がいろいろな方の交流の場を提供するような立て付けではあるのですが、この場で生き生きと議論したり、コラボレーションが起こって新たな製品やサービスが生まれ、どんどん皆さんのビジネスにつながっていくようなことをやっていきたいです。そういう場が墨田区にあるというのがすみだのものづくりブランドだと思っています。少し抽象的な言い方になりますが、墨田区に行くと何か事業者たちが集まってワイワイやりながら、いろんなことを議論したり話し合ったり、前向きにやっているうちにそれがビジネスになっている。新しいことをやろうと思ったら墨田区に行こう、という人がたくさん増えたら、すみだのものづくりのブランド価値が上がっているといえるのです」
瀬戸さんは最後にこう締めくくった。
「今日参加したオープンパートナーの方々には、『すみだモダン』の新しい歴史の目撃者になっていただきたいと思います。このあとはオレンジトーキョーの小高さんとMakuakeの武田さんの基調講演がありますね。とりあえず今日は最初なので皆さん話を聞く姿勢ですが、車座になって話をするようなふれ合いの場にもなってほしいです。これは役所の人間だけではできません。イベントの終わりにはぜひ、意見交換などしていただいて。できることなら次回の開催を楽しみに思ってもらえたら、今日は成功かなと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
オープンパートナーへ贈る2つの基調講演
イベントは、「すみだモダンコミュニティ」でオープンパートナーになった方の特典である基調講演へと続く。
第1弾はフロンティアすみだ塾第4期修了生で、オレンジトーキョー代表取締役の小高 集さんによる、「なぜ売れない?を追求することで磨かれる」という講演だ。
メリヤス工場の3代目だった小高さんが後を継いだときに感じた先行きへの不安感からいかにしてオリジナルブランド「MERI」を立ち上げ、メリヤスを編み込んだルームシューズでBtoCへと進出していったか、という内容。
印象的だったのは、私はあくまで皆さんと同じ立場です、ととても控えめだったこと。
ポロシャツの襟など洋服のパーツを作ってきた同社では、絶対服は作らない、飛び込み営業はしない、そのかわりきちんとしたカタログを作り、販売先とのコミュニケーションをしっかりとって、欲しいと言ってもらえたらきちんとすぐに出せる状態にしておく、といったルールを決め、大切に守ってきた姿勢には学ぶところも多く、多くの参加者が耳を傾けていた。
続く第2弾はクラウドファンディングのプラットフォーム大手として知られ、新商品のテストマーケティングに最適なMakuakeから、キュレーター本部局長の武田康平さんによる「Makuakeを活用した自社商品開発」という講演だ。
武田さんは中小企業の担当で、最もMakuakeをうまく活用しているのが製造業だと話してくれた。Makuakeに出品が認められる条件はただひとつ、新しいものであることだという。
試作品の段階で出品が可能なため、在庫を抱えるリスクがないことや、200万人の会員に対し出品が可能で、購買者の分析がフィードバックできるといったMakuakeの強みについても詳細な紹介があった。
オープンパートナーの多くが何かのメーカーということもあり、その眼差しは真剣そのもの。講演のあとには多くの手が挙がり、活発な質疑応答が行われた。
第1回のコミュニティイベントを終えてそれぞれが思うこと
はじめはどことなく気恥ずかしさもある雰囲気のなかで始まった「すみだモダンコミュニティ」のキックオフイベントも、会が終わるころにはあちらこちらで挨拶が交わされ、和やかな雰囲気で名刺交換する参加者の姿が見られた。
日本橋梁工業株式会社の代表取締役菊地智美さんは、「すみだモダン」のことは知ってはいたものの、「フロンティアすみだ塾」の同期だった小高さんの講演に興味を持ったのが参加のきっかけだったそう。実際参加してみると「すみだモダン」に対し、いままでとは違った印象を持ったようだった。
「ものを認証しているイメージがすごく強くて、うちの業界も商品を持ってはいるのですがBtoCではなくBtoBということもあり、全く関係ないかなと思っていたのです。ところがお話を聞いていて、墨田に本拠地があれば、モノがなくても、うちのように高速道路の橋を支えているというコト自体が認証まではいかなくても皆さんに知っていただける機会になると知りました。役に立つようなコミュニティであればぜひ参加したいなと思います」
墨田区で3軒の飲食店を営む有限会社ThreeDo’s代表取締役の新元美幸さんは「飲食店はものづくりといってもお料理を提供するというのがまず第一にあって、その次に余力のある人が商品を作ります。うちは日常生活の中でなるべく無添加を、というテーマで調理をしているのですが、そういうなかでまず変えるべきは調味料だなということになりました。当社では調味料を自分のところで作って小売りをしています。賞味期限が短いので大量に作ってどこかに卸すということはできないのですが、近所のカフェに卸すなど地域の中で少しずつはやっています。そういう事業者を対象にしたコミュニティができるのであれば参加したいなと思います」と感想を述べてくれた。
コートやジャケットなどの襟内でそのブランドを証明する織ネームをはじめとするアパレル資材を取り扱うヴェストのクリエイティブディレクター間 達也さんとデザイナー若狭 望さんは「すみだモダン」の取り組みへの共感から、すみだモダンコミュニティへの参加を決めたという。
間さんは今後のすみだモダンコミュニティでの活動について、期待を込めてこう語る。
「以前、当社の主力商品であったシルク糸を使用した高品質織ネームがございましたが工場の廃業により、作ることが困難になってしまいました。この素晴らしい技術を沢山の方に知っていただきたいと、当時のシルクネームをアップサイクルした商品を展開させていただいております。本商品で売上を立てるという目的でなく、ネームの魅力を広く伝えていくために、ものづくりで活躍されておられます事業者様と共創することで新たな発信ができたらと考えています。そういった交流ができることを期待しております」
産業振興課の児玉さんは、「惜しくも、先日行われた『すみだモダンブランド認証』に至らなかった方にも、引き続き『すみだモダン』には関わっていただきたいと思っていましたが、今日もそのなかから『参加します』と言って来てくださった方がいて、それはよかったと思っています。コミュニティに参加していただくことで、事業者同士の距離も近くなりますし、墨田区としても今後しっかりとフォローしてきたいです」と語り、この活動の手応えを感じているようだった。
Photo: Sohei Kabe
Edit: Katsuhiko Nishimaki / Hearst Fujingaho