vision
構想

「すみだモダン」は昔も今も、ものづくりのまちの要

2022.11.18
ものづくりのまち、すみだ。このまちの「産業ブランド力」を高め、広く知ってもらうため、墨田区は2010年に「すみだモダン」プロジェクトを発足させた。以来、価値ある物を認証・PRしてきたが、2021年からは「モノ」よりも名品を生み出す事業者たちの活動を応援する「コト」に光を当てた活動へとシフトチェンジ。なぜ今、変革が必要だったのか。その理由を、墨田区産業観光部部長の郡司剛英さんに伺った。

すみだで作られた確かなものを発信する。「すみだモダン」誕生の経緯

職人の街ならではのブランディング策

「すみだモダン」は2012年の東京スカイツリー開業を見据え、2010年からスタートしたプロジェクトです。墨田区は「ものづくりのまち」といわれていましたが、当時はそれを体系的に発信できるすべがありませんでした。実際、墨田区には最盛期で9703もの多くの町工場がひしめいていました。

浅草のある台東区が「商人のまち」とすれば、墨田区は「職人のまち」です。職人は作ったものをいちいち説明しないんです。「これって、何がいいんですか?」「そんなもん、使えばわかるよ」と。いい意味でも悪い意味でも商売っ気がない。今まではそれでうまく住み分けができていたかもしれませんが、東京スカイツリーができたらそうはいきません。

いろいろな側面から観光地としての魅力を発信していかなければならなくなったのです。「ものづくりのまち」という側面は、「すみだモダン」ブランド認証事業を通し広く国内外にPRしていく産業プロモーションで行うことになりました。

「すみだモダン」ブランド認証商品

区が先導して商品発掘、発信、販路拡大

多くの人がここを訪れたとき、何を買ってもらえれば「すみだ」を感じ、リピーターになってもらえるのか。それには単なるお土産ではなく、「本物」を買ってもらうのが大切だろうと。そこで「すみだモダン」というブランドを立ち上げることになったのです。まず我々が、しっかりと作られたモノをきちんと見いだして、間違いないモノ=「すみだモダン」として認証する。認証された確かなモノを買ってもらえれば、それを通してすみだの歴史や伝統・文化を感じてもらうことにつながるだろうと。

一方、「すみだモダン」は販路を持たない事業者さんにとっても、魅力的な取組でした。認証されれば商品がパンフレットに載り、区を通して自分たちの情報を公式に発信してもらえる、しかも東京スカイツリーで展示や販売もしてもらえるのですから。「すみだモダン」に認証されるよう、皆さんいっそうものづくりを極めてくださいね、と事業者さんを支援する活動でもあったのです。

ものづくりを極め広がりをみせる。「すみだモダン」の成熟期

2015年、台湾デザインセンター(現:台湾デザイン研究所)と墨田区が共同主催する「日本精造×台湾設計」計画について協力の覚書(MOU)に調印。

海外進出も視野に入れた高いビジョン

私は今期を含めて2度「すみだモダン」に関わっていますが、1度目は2013年からの3年間でした。当時は東京スカイツリー開業後の次の目玉である2016年東京オリンピック・パラリンピック招致を見据えてイケイケドンドンの頃(東京オリンピック・パラリンピックは2020年での開催が決定)。海外からやってくる多くのお客さまに訴求するにはどうしたらよいか。それにはいっそう「モノ」をブラッシュアップする必要がありました。

もともと欧米には日本文化や日本のよさはよく知られていて、すんなり受け入れてもらえる素地がありました。ここでアジア圏、しかも多くの人口を擁する中華圏に訴求することができれば「すみだモダン」の認知度もさらに上がります。その切り口を探していたとき、ちょうど台湾デザインセンターの方が「すみだのものづくりは素晴らしい。ぜひ台湾デザインと融合した形で何かできないか」と興味を示してくださった。台湾はその頃デザインのオリンピックといわれる「ワールド・デザイン・キャピタル台北2016」の開催を控えており、よいデザインを実現できる仲間を探していました。

台湾人デザイナーの黑生起司氏と墨田区の事業者である廣田硝子とのコラボで完成させたプロダクト「WAYOU」。

台湾とのコラボレーション。さらに可能性を広げるきっかけに

墨田区としても中華圏の方に好まれるデザインで、すみだのものづくり力を発揮し、よいものを作れば広く中華圏へとアピールできるよい機会です。そこで生まれたのが「台湾設計×日本精造」というコンセプトの製品でした。2015年には台湾デザインセンターと墨田区が協力の覚書(MOU)に調印し、日本と台湾が連携して国際市場を開拓することになりました。墨田区はほかにも海外のデザイナーとのコラボレーションによって、いくつもの「すみだモダン」を世に送り出し、着々と五輪への布石を打っていました。

翻って国内では、「すみだモダン」という取組自体が素晴らしいと評価を受けるようになっていました。せっかくなら単品のモノとしてのグッドデザインではなく、「すみだモダン」という取組自体でグッドデザインを獲りにいこうということになりました。その結果「すみだ地域ブランド戦略」という名でグッドデザイン賞を獲得し、パンフレットなど多様な冊子にGマークを付けられるようになったのです。海外でも認知度の高いGマークには一定のステータスがあります。ある意味、「すみだモダン」という取組が一段上がった時期だったといえるでしょう。

2021年、「すみだモダン」は新たなフェーズへ

認証事業の休止と、ブランド戦略の転換期

「すみだモダン」のブランド認証は年に1度のペースで続けてきて、過去9回の実施で延べ145点の商品が認証を受けました。

一方、産業を取り巻く社会環境には、変化が現れはじめていました。ひとつは消費者が「モノ」を見る視点です。SDGsやエシカル、トレーサビリティなどの言葉が広まりつつあるように、自分の手に取った商品は誰のどういう想いで作られたのか、環境に優しいのかなど、その商品の「ストーリー性」を重視する人が増えてきました。

もうひとつは、区内事業者の状況です。近年、墨田区ではこれまでのものづくりに留まらず、SDGsの達成を目指す事業者のほか、社会課題の解決などに果敢に取り組む事業者が現れるようになりました。区としては、このような変化を踏まえた産業のリ・ブランディングをしていかなければならない。そこで、2018年にいったんこれまでのブランド認証事業を休止することにしたのです。

しかし、そんな中、世界中の日常を揺るがしたのが新型コロナウイルスでした。コロナが蔓延しだして、世界中の物流、人の移動、経済活動など、すべてのものが滞ってしまった。人とのつながりが制限される中では、あらゆるものが停滞し、心の閉塞感をもたらします。そこが価値観のターニングポイントだったという気がします。2021年までの3年間は、コロナ禍で「すみだモダン」が次の段階に進むにはどう変化したらいいか、悩みもがき苦しんだ時期でもありました。

墨田区にあるシューズメーカー「ヒロカワ製靴」の製造工場。

モノに込められた想いに再びフォーカスしていこう

すみだがほかの観光地と違うのは、職人のまちとして、ものづくりの歴史がしっかりと残されていることです。実は「すみだモダン」の取組の中には当初から、モノに込められた職人の思いやそのモノができたときの背景、そこにどのような取組があったのかを含めて発信していこうという想いがありました。

ところがスタート当初はどちらかというとモノにフォーカスを当てて発信することが多かった。ならば今度はそうしたストーリーに焦点を当ててモノと一緒に論じるようにしてはどうだろう、ということになったわけです。

「ベストオブすみだモダン」にも選ばれたヒロカワ製靴の「SPIDER」。2010年に誕生した商品は現在も会社の代名詞ともいえる逸品。このような「ホンモノ」をつくるために、墨田区が始めたのが「すみだモダン フラッグシップ商品開発」プロジェクト。

原点回帰と流行にとらわれない「ホンモノ」づくり

「すみだモダン」第2フェーズの始まりです。やっていることの本質はスタート当初と変わらないのですが、その活動のどこに光を当てるのか、方法と露出の仕方が変わっただけです。流行を追いかけず、「本物」をしっかりと発信していこうという活動は、色あせることはありません。

いいものはそう簡単に変わらないし、一時的ではない輝きは必ず残ります。しっかりと地に足をつけたものを紹介するこの活動も、それを極めると原点に戻ってくるのは必然という気がします。変化しなければ続けられない状況の中、原点回帰でどの部分に光を当て、どの部分を発信していくか、コトを中心としたものづくりの見せ方に注力していく時期に来ているのだと感じています。

「健全なえこひいき」に見る墨田区の特殊性

新生「すみだモダン」の「すみだモダン フラッグシップ商品開発」プロジェクトの様子。墨田区内の多くの事業者がワークショップに参加し、新たな「ものづくり」のヒントを学んでいく。

中小企業とともに歩むすみだの歴史

墨田区には海外や地方からの視察が多く来ます。最近は新型コロナの影響で受け入れはないと思いますが、私のいた3年間は毎月2件くらい各地からの行政視察がありました。そのとき「すみだモダン」のPRをすると皆さん一様に驚かれます。認証されれば区が公式な情報発信をして、販路までセットで扱ってくれるのですから!

そんなときは「墨田区は健全なるえこひいきをしています」と答えます。通常だったら業界単位、組合単位でやる支援を墨田区はどうしてできるのかといえば、墨田区は中小企業振興基本条例を1979年に日本で初めて制定した自治体であるという背景があるからだと思います。

産業のまちの独自性と未来構想

もともと墨田区は「ものづくりのまち」といわれていましたが、エビデンスがあったわけではありませんでした。そこで時の区長が区内の産業構造を調べるため、中小製造業の実態調査を行うことにしたのです。

これは人海戦術で行われました。係長級以上の職員が200名、2年をかけて区内の事業者すべてを回ったのです。これによって、各社の業態や持っている技術や機械、取引先に後継者の有無まで事細かに記された企業台帳が出来上がりました。ここまでセンシティブなデータをすべて行政が管理しているのはおそらく23区で墨田区だけだと思います。

以来、墨田区ではエビデンスデータに支えられた産業施策が展開できるようになりました。先にお話しした中小企業振興基本条例です。この条例の理念は3つあります。ひとつ目は区長の責務。中小企業のあるすみだを振興するために区長はしっかり責任を持って取り組む。ふたつ目は事業者の努力。事業者は自助努力で自らの経営を安定させ、事業をしっかり行うことで社会貢献をしてくださいというもの。みっつ目が地域住民の理解と協力です。ものづくりのまちなので町工場から騒音や振動が漏れるのは当たり前ですが、みんなで協力してまちを盛り上げていきましょう、というものです。

「すみだモダン フラッグシップ商品開発」のワークショップの様子。参加事業者自らが、自社の強み弱みをとらえ直し、自社に必要なものづくりを考えていく。

時代にあわせ、打ち出してきた産業施策

その後1985年にスタートした「すみだ3M運動」(ものづくりの歴史や職人の技術にふれてもらう機会を創出)や、2004年の「フロンティアすみだ塾」(地域産業の次代を担う若手人材の育成を目指す私塾形式のビジネススクール)といった活動もこの延長上にあります。墨田区は常に、地元の中小企業と地域住民と一体となって、お互いに支え合いながら歩みを進めてきました。「すみだモダン」もその一環なのです。

墨田区は行政が事業者さんと同じ目線で話すことができ、距離も近く密な連携がとれる非常に働きやすいところです。ここで働きたい、事業を始めてみたいという方が、今後たくさんいらしてくださることを期待しています。

Profile
郡司 剛英Takehide Gunji
墨田区産業観光部 部長。1991年入庁。墨田区初の第三セクター立ち上げに携わった後、すみだ中小企業センターにてものづくりを中心とする中小企業のサポートや産学官の連携などに従事。東京スカイツリー開業時の観光課長を経て、2013年から産業経済課長として「すみだモダン」のブランド認証事業を推進した後、企画経営室参事として、区内初となる2つの大学誘致を実現。2022年4月より現職。産業・観光行政のキャリアは現役管理職最長である。
Text: Masami Watanabe
Photo: Souhei Kabe, Kasane Nogawa
Cooperation: Hearst Fujingaho
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この記事へのコメント

  1. 小髙 集

    オレンジトーキョー

    代表取締役

    すみだモダン は、モノづくりとデザインを融合させることで、この町の魅力を沢山の方に知っていただきたいという思いからスタートしたと思います。商業と工業が入り混じる都内でも特殊なこのすみだという地域の魅力をこれまで培ってきた「すみだモダン」という一つのスタイルとして、さらに活用していくことで、シティープロモーションそのものに発展して行ければよいのではと考えています。

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