co-creation
共創性

金谷 勉――私が“すみだ”を選ぶワケ

2022.12.20
2021年に刊行した書籍『すみだモダン 手仕事から宇宙開発まで、"最先端の下町"のつくり方。』より、一部のコンテンツをご紹介。墨田区の多くの「作り手」に密着した内容より、商業施設や企業の広告デザインディレクション、商品企画開発など幅広くデザインをプロデュースする金谷 勉さんを取材した記事をお届けする。

職人と一緒にものづくりをする

僕はデザインの仕事をして20年ほどになりますが、これまでは東京の西側、恵比寿とか代官山、青山あたりに事務所を構えてきて、家もそのあたりでした。

でも2014年に墨田区の「ものづくりコラボレーション」事業という、地元の製造業社と一緒に新しい商品を開発する仕事にコラボレーターとして参加したことで、墨田区に通うようになりました。一緒にものづくりをするということで、職人さんとか製造業系の方たちとの打ち合わせも多かったのでね。

次第に区の担当者からも「金谷さん、なんで港区(青山)にいるんですか?」って言われるようになって(笑)。その後、職人さんたちとも深く付き合うようになって、「たしかに墨田区に拠点を移したほうが自分たちらしいのかな」と思い始めたんです。

「コトモノミチ at TOKYO」では全国各地の事業者や職人が手掛けた商品を販売。企業と職人、消費者をつなぐため、事業分析や商品開発を学ぶ講演会や、様々な立場の人が交流できるイベントを開催するなど、幅広い活動を行っている。

きっかけになったのは2018年に墨田区の「新ものづくり創出拠点」事業に採択されたこと。これは中小企業が区内の事業者と連携しながら新しい製品や技術、サービスなどを創出するための場を整備する目的でつくられた補助金交付事業。

僕が代表を務める「セメントプロデュースデザイン」はグラフィックデザイン事務所としてスタートしましたが20年ほど前から「みんなの地域産業協業活動」と銘打って、全国の地域の事業者と連携してものづくりをする取り組みをしていたんです。

簡単に言うと、全国にある“磨けば光る”原石を発掘して商品化し、それを広めていく活動。ただ商品をつくって終わりではなくて、地域が将来的に自走していけるように商品づくりから販売ルートの開拓までをコンサルティングするサービスです。

「新ものづくり創出拠点」事業に応募したのも同様の内容で、それを様々な分野の製造業が集まる墨田区でやりたいと。無事に採択されまして、2019年に「コトモノミチ at TOKYO」をオープン。店の開店とともに東京の自宅も墨田区に移しました。

全国の事業者と協働して生み出した商品が並ぶ「コトモノミチat TOKYO」。

墨田区は錦糸町にアジア各国のレストランが集まる、国際色豊かなグルメストリートがあったり、色々な文化が詰まっていて面白いですし、商店街が残っていたり、居酒屋が多いのもいいですね。

あとはやっぱり下町ならではの人と人とのつながりの濃さ。お店の近所に面白いおばちゃんがいるんですけど、店に出入りする事業者さんたちに「あんたんとこ、『蔦屋書店』に出してないでしょ、紹介してあげるわ!」って、どんどん人をつないでいっちゃう。

親戚ですか?ってくらいの勢いで、おせっかいと思う人もいるかもしれないけど、そういう部分はすごくいいなと思うんです。

墨田区で長年自動車メーカーの下請けとして板バネやプレス加工部品を製造してきた町工場の事業再生を懸けて開発された「TREE PICKS(ツリーピックス)」ステンレス製フードピック

墨田区で様々な事業者さんのコンサルティングをするなかで驚いたのは、墨田区役所の方々がものすごく熱心にものづくりの活性化に取り組んでいること。

僕はこれまで全国で同じような活動をしてきましたが、国や自治体から予算が出て、いざ具体的に事業を進めようとなると、たいていの場合は外部団体に丸投げして、そこが運営する。

でも墨田区さんは全部自分たちでやっちゃう。それは「ものづくりコラボレーション」に参加したときから感じていて、打ち合わせ後にどこかでごはんでも食べましょうかってなると、「あのお店はこんなところにこだわっている」とか、とにかく詳しいし、その魅力を全力で伝えようとしてくる。

全員がPRマンのようで、「こういうものがないかな〜」ってボソッて言ったら「あそこの事業者さんならできますよ」って。本当にもう“すみだの生き字引”みたいな感じなんです。実際、全国の自治体が墨田区役所に視察に来たりして、すごく注目されているんです。

廣田硝子とつくった小物入れ「切匣(きりはこ)」は、食器以外でも日用雑貨として江戸切子を楽しんでもらいたいという想いから生まれた。

ただ、墨田区のサポートが手厚いおかげか、事業者さんのなかには「墨田区は次は何をやってくれるんだろう?」って、“きっかけ待ち”をしているところも多いと感じます。

でもせっかく高い技術を持っているんだから、100%自走でなくても“半走”くらいはできるようになってほしい。そのために僕たちのようなプロデュース的な視座を持った存在が必要なのかなと。

重要なのはヒット商品をつくることではなくて、その会社がつぶれないこと。そのためには各事業者さんの規模や、お財布事情、これまでやってきた下請け製造などの本業との兼ね合い、それらを総合的に分析して新しいものづくりを仕掛けないといけません。

例えば新商品を売りたいからといって量産体制をつくると、下請け製造の生産ラインを止めたり、稼働時間を減らして対応しなくちゃいけない。材料だって大量に買ってつくってみたものの、あんまり売れなかった……となったら大変です。

だからできるだけ自社で余っている素材を使うとか、量を抑えてつくるとか、現実的で緻密な計算が欠かせない。そこの算段が甘くて、結果、会社がなくなってしまったというケースもあるんです。

デザインのあるべき姿を求めて

セメントプロデュースデザインの金谷 勉さん。

こういう細かい部分まで一緒に考えるわけですが、僕は自分の商売を「問屋」だと思っているんです。

もともと問屋という存在は、商売の座組みをする役割を担っていました。分業の職人を取りまとめて、誰が何をつくれば売れるのかを差配し、ものづくりをする。でも今は〈ユニクロ〉に代表されるような製造小売業者(SPA)が台頭して、問屋はマージンを取るだけ。

問屋が本来担うべき役割を果たしていないから、多くのメーカーがもののよさや本質で差別化できず、価格で差別化するようになってしまいました。問屋が機能しないなか、職人などの製造業者が商品のコンセプトや売り方まで、ひとりで考えるというのは無理な話です。

だから僕は現代の問屋、「ニュー問屋」になりたいんです。

ゴム金型の設計・製造を行う石井精工とつくった「ALMA-aroma pins」。香水を含ませた綿玉を中に仕込み、“香りを装う”ピンズアクセサリー。2016 年の「すみだモダン」認証商品。

と、こんなふうに言うと、「町工場の救世主」みたいな感じで捉えられそうですが、決してそんなことはなくて、自分の商売の生き残りをかけた取り組みなんです。

だって僕らデザイン業界も結局は下請け業者でしょ。生殺与奪権を持たないという点では下請けの町工場と同じなんです。生き残っていくためには自分たちで発信物をつくっていかなくちゃいけない。

もっと言うと、僕たちデザインの仕事は製造業者や流通者から入ってくるものです。例えば日本のメーカーが海外企業に買収されたら、プロダクト自体やそれにまつわる広告デザインの仕事も消失してしまう。

日本の製造業者、ものづくりを担う人たちが元気でいてくれないと、僕らデザイン業界も困ってしまうんです。だから一緒に頑張りましょう、支え合って、永続できるような仕組みをつくりましょうというわけです。

「コトモノミチ at TOKYO」の店名は「コト=技術」「モノ=意匠」「ミチ=販路」をプロデュースし、やがては事業者自身が自力で商品開発や流通をしていけるようにとの金谷さんの願いが込められている。

これからそうした問屋的な仕事をしたいと思っている若手のデザイナーさんがいるなら、墨田区に拠点を置いたらいいと思います。

資金が乏しいスタートアップでも、比較的安く借りられる場所があるし、何かプロダクトをつくろうと思ったとき、小ロットでやってくれる工場がたくさんある。表現の可能性が広がるはずです。あと飯屋も安いし(笑)。

事業者にとってもフットワークの軽い若手のデザイナーなら、ちょっとした仕事も頼みやすいだろうから、困っている事業者さんにどんどん会いに行って、一緒に課題を解決していったらいいなと思うんです。

多様なスモールビジネスがつながって、墨田区全体がシリコンバレーならぬ“クラフトバレー”みたいになっていく。そういうイメージが僕のなかにはあるんです。

「何かやってみたいな、つくってみたいな」と思ったときに、すぐそばに助けてくれる人がいる。それはクリエイターにとって天国ですからね。

Profile
金谷 勉Hajime Kanaya
京都精華大学卒業。1999年「セメントプロデュースデザイン」設立。商業施設や企業の広告デザインディレクション、商品企画開発など幅広くデザインをプロデュース。流通も見据えた形での各地の地場産業との協働事業にも積極的に取り組み、2013年、福井県鯖江市との協働商品〈Sabae mimikaki〉でグッドデザイン賞を受賞。同年、「がんばる中小企業・小規模事業者300社」に選出。著書に『小さな企業が生き残る』(日経BP)。
Shop Data
コトモノミチat TOKYOCOTO MONO MICHI at TOKYO
ADDRESS: 東京都墨田区業平4-7-1
TEL: 03-6427-6648
HP: https://coto-mono-michi.jp/
Text: Yuriko Kobayashi
Photo: Kasane Nogawa
Cooperation: Hearst Fujingaho
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