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共創性

発足から2年、「すみだモダン」オンラインショップの歩みと未来

2023.04.20
どんなに良いものも、それが知られていなければ売ることは難しい。「すみだモダン」のブランド認証商品を手がける事業者のなかにも、そうした悩みを持つ人は少なくなかった。そこで墨田区は、多くの人に知ってもらうためにオンラインショップ「すみだモダン×スタイルストア」をスタート。2023年3月で2周年を迎えた同サイトは、つくり手にも買い手にも喜ばれ、いっそうの盛り上がりを見せている。
オンラインショップ「すみだモダン×スタイルストア」

オンラインショップ「スタイルストア」との出合い

墨田区は当ホームページやイベント、書籍、物販などで「すみだモダン」ブランドの魅力を伝えてきた。

物販としては、「東京スカイツリー」の「産業観光プラザ すみだ まち処」(2022年3月末に閉店)や、「東京ミズマチ」の「SHOP&WORKSHOPすみずみ」(2023年3月21日閉店。現在は別店舗※の準備中)といった店舗を運営し、実際に「すみだモダン」のブランド認証商品を手にし、その品質を確かめてもらうことのできる場を提供してきた。
※2023年5月3日に(一般社団法人)墨田区観光協会が「コネクトすみだ[まち処]」をグランドオープン予定

ところが新型コロナウイルスの影響により、近年はこうした実店舗も臨時休業を余儀なくされたり、開店しても訪れる人が少なくなってしまったりして、計画していたプロモーションが思うようにできない事態に陥ってしまった。

そこで、以前から検討されていたオンラインショップでのPRが、2020年から本格的に検討されることになった。

「すみだモダン」関連商品を扱う専用ECサイト。これがあれば、大手のECサイトのように大量の商品に埋もれてしまうことなく、商品ひとつひとつに焦点をあてた紹介も可能で、広く告知することができる。

それを見た人が欲しいと思えば、そのタイミングで時間も場所も選ばず購入してもらうことも、催事などで商品購入を迷っている人への購入方法の案内とすることも可能となり、区内事業者の販路拡大へもつながっていく。

とはいえ行政がオンラインショップを運営するというのはかなりハードルが高い。

一からスキームを立ち上げるよりも、実績があり顧客のついているオンラインショップと連携し、「すみだモダン」の特設サイトを作るほうがスピーディーかつ効果的。

既存のオンラインショップに掲載することで、事業者自身もページ作成や決済、物流管理などの手間を省くことができ、初期投資を抑えられ、オンライン販売のノウハウも蓄積できるといったメリットもある。

以上のような理由から、「すみだモダン」に適したECサイトを探すことになった。

墨田区産業振興課の中村光希さん(左)。

「その当時、すでにお隣の台東区がECサイトでショップを開設していました。そこで、まずはノウハウや、実情を探るために、台東区にお話を伺いに行きました」と産業振興課の中村光希さん。

「台東区は『スタイルストア』というECサイトと契約を結んでおり、そこは自社で販売する商品を丁寧に取材してから紹介してくれる会社で、売り上げからも効果を感じている、ということでした。すみだモダンとも親和性が高そうだと思い、早速メールを送ってみると、すぐに返信がきました。資料を持ってきてくださった運営会社のエンファクトリーの方々はとても親身で、何より扱う商品への熱い想いがあり、それが信頼感につながりました」

ものづくりの背景までしっかりと伝えてくれるオンラインショップ

オンラインショップ「スタイルストア」のトップページ。

「スタイルストア」は衣食住にまつわる暮らしの品々を紹介、販売するオンラインセレクトショップだ。扱うのは大量生産型の商品ではなく、「つくり手の顔が見える愛のある商品」。

日々の生活に、今までとはひと味違った快適さをもたらしてくれるような、こだわりの品々が並んでいる。商品ひとつひとつにバイヤーが介在し、選定した商品を実名と顔を出して解説しているため、顧客の信頼もあつい。

月間来訪者は約50万人、月間PV数200万への直接的なアプローチが可能で、約7万人いるメールマガジンの会員には、毎日違ったテーマで厳選した商品の記事を送っており、タイムリーなプッシュ通知も可能となっている。

バイヤーは全国に足を運び、スタイルストアで紹介したい良品を探し出す。そして自ら、つくり手の思いや背景にあるストーリーを取材して丁寧に紹介。商品撮影は自社で行い、使い勝手も必ずレビューする。こうした立体的な商品紹介に注力しているのも特徴だ。

写真は、二宮五郎商店の「『あな』がないベルト」

たとえばファッションアイテムの「ベルト」であれば、必ず着用イメージも撮影し、気づいたポイントをコメントに載せる。

ライフスタイルアイテムの「鍋」「トング」「醤油さし」などもサイズ感が分かるように実際に使用風景を撮影し、この商品を使うことで、どういった点が今までよりも快適なのかを分かりやすく説明する。

商品写真とスペックが並ぶだけのECサイトとは違い、ユーザー視点に立った商品紹介は評判を呼び、着実にファンを増やしている。

エンファクトリーのショッピングユニット ユニット長、徳島久輝さん(右)。

「スタイルストア」の運営会社エンファクトリーのショッピングユニット ユニット長、徳島久輝さんは行政との縁を次のように語った。

「2005年のECサイト設立当初から決めていたのは、つくり手の存在を大事にしようということ。商品そのものも魅力的だけれど、どういった人がどういうストーリーでものづくりをしているかをしっかり伝える記事を打ち出していました。行政の方々が、それぞれに地場の産業をこれからどうしていこうかというお悩みがあるなかで、どこかのECサイトと仕事をしたいとなったとき、つくり手にフォーカスしている分、我々のサイトを見つけていただきやすかったのかもしれません」

商品紹介とインタビューをセットで掲載

写真は、Tokyo nobleの「スマートブレラ ロング」

晴れて契約が成立し、2021年3月にECサイト「スタイルストア」内に、「すみだモダン」専用のページがオープンした。

「このサイトを作るにあたっては、単なる商品紹介ではなく、商品完成までの背景やストーリーをしっかり伝えられるようにつくり手のインタビューもセットで掲載してほしい、とスタイルストアにお願いしていました」と中村さん。

エンファクトリーのバイヤー、楠 美冴登さん(中)。

「というのも『すみだモダン』の商品は、見た目の真新しさだけではなく、職人のものづくりの技術ならではの『使い勝手』や見えない『こだわり』が詰まったものがたくさんラインナップとしてあります。他の似た商品とどう違うのか、また提示している価格にはちゃんとした理由がある、それがきちんと伝わるページを丁寧に作ってくださるのがスタイルストアだったからです」

サイトづくりに取り掛かるにあたり、まずは「すみだモダン」のカタログを「スタイルストア」のバイヤー全員がチェックした。ファッションアイテムバイヤーの楠 美冴登さんは、「最初に『すみだモダン』のブランド認証商品の一覧を拝見したときは、ちょっとワクワクしましたね。自分たちでは探しきれないようなアイテムが多かったので、これはいい機会をいただいているな、という気がしていました」と振り返る。

オンラインショップ「すみだモダン×スタイルストア」では、商品とともに、つくり手の背景まで取材記事で知ることができる。

バイヤーと墨田区で「スタイルストア」の顧客が好みそうな商品を選定し、墨田区から事業者に声をかける。

「そうしてご了承いただいた方に対して、バイヤーと墨田区がインタビューに伺って、つくり手の思いや商品を取材しました。その後に商品紹介ページとインタビューページの作成に取り掛かっていただく、といった流れです。『スタイルストア』からは、『すみだモダン』の雰囲気や事業内容について理解しようとしてくださる姿勢をとても感じました。実際の『すみだモダン』のページも、それらをとても大事にして、効果的にPRができる内容にしていただけたので、とてもありがたく思っています」と中村さん。

楠さんは、バイヤーが実際に商品を見に行った際には、事業者とどの商品をどの時期にどういうふうに打ち出すかを具体的に相談し、そこから撮影などの実際のページづくりを開始すると教えてくれた。

「直接お会いしたときに聞きたいお話は全て聞かせてもらいます。おそらくお客様が知りたいのは、どういう人がどうやって作っているのかということ。また、それを使うことで、どのように良いことがあるのかを、具体的にページに記載するようにしています。そうした内容をどのような画像で見せ、テキストで伝えていくのかを毎回工夫しています」

徳島さんが補足する。

「我々の仕事は商品を翻訳するような感覚です。つくり手はずっと作り続けていらっしゃるので、その商品を少しでも軽く、薄くすることに技術を磨かれています。ところがお客様にスペックというものは意外と伝わりにくいのです。たとえば包丁が150gから90gに軽くなったのであれば、それはこういう面で良いことなのですよ、ときちんとした言葉で伝えることを大切にしています。オンラインというのは、直接商品を触ることができないため、スペックが伝わる写真も使っている写真も、その両方が必要だと考えています。使い方はシンプルだけれど、お客様としてはここはどうなっているのだろう、と思うところをしっかり届けるようにしたいですね」

「立ち上げのときはサイトの事例がないのでつくり手のみなさんには、スタイルストアを信じてご協力いただくしかなかったのですが、プレゼンに伺って2時間ご説明をしてようやくご納得いただけたつくり手さんに感謝の言葉をいただいたときは感動しました」。

こうした経験を経て少しずつ結果を出してきた楠さんは、最近はお見せできる事例も増え、スムーズにやりとりができるようになったと笑顔になった。

「すみだモダン」の商品が、生活のなかでの活用シーンや、商品のディテール写真で丁寧に伝えられる。 写真は、岩澤硝子の「江戸前すり口醤油注ぎ チップ 大」

バイヤーと事業者の良好な関係

実際の事業者との打ち合わせはどのように行われているのか、ライフスタイル商品担当バイヤーの菱倉慎太郎さんに密着した。

菱倉さんがこの日訪れたのは1951年創業の中橋莫大小(メリヤス)。リバーシブルのルームシューズmerippa(メリッパ)を製造販売しているメーカーだ。足元がふわふわと包まれる感覚は今までのスリッパにはない履き心地だと、多くの人を魅了している。

菱倉さんは季節ごとに新作をチェックする。そのなかからオンラインショップで取り扱う商品を相談したり、必要とあらば製造現場を見せてもらい、つくり手の取材を行うこともあるという。

エンファクトリーのバイヤーの菱倉慎太郎さん。

「このシャリ感は気持ちよさそうですね」と、商品を実際に手に取って肌触りを入念に確かめる菱倉さん。

ひとつひとつの新作の、それぞれの特徴にしっかりと耳を傾けながら、商品を選び、扱わせてもらう数量を考えていく。

お互いの近況報告から会話も弾み、話題は2023年1月にフランス・パリの展示会にmerippaを出展してきたという話に。その後、代表取締役社長の中橋智範さんは、「現在、パリの2区に『merippa』の直営店を準備中です」と最新のニュースまで教えてくれた。

中橋莫大小(メリヤス)の中橋智範さん(中)に案内され、商品の製造現場を視察するバイヤーの菱倉さん。

国内でも大人気のmerippaを扱いたいという他のECサイトからのオファーも多いというが、自社ECサイトを持つ中橋さんはなかなか首を縦に振らない。

「こちらで撮った写真を使ってただ販売代行するだけなら、自社のオンライン販売とあまり変わらないので基本的にはお断りしています。『スタイルストア』とのお付き合いはもう6年になりますね。今年はmerippaが誕生して10年なんですが、『スタイルストア』とは比較的早いうちから取引がありました。というのも『スタイルストア』は商品をきちんと写真に撮り下ろし、実際に現場の取材もしてくれますから。他のECサイトと区別化したクオリティで紹介してくれるのです」

2年を経て感じられた手応えとこれから

2023年3月、「スタイルストア」の「すみだモダン」オンラインショップは2周年を迎えた。現在ここで扱う商品は、「すみだモダン」のブランド認証商品をはじめ、派生した商品群を含めると、25社86点にのぼる。これらの事業者は、実際に参加してみてどう感じているのか、墨田区は2022年末に各事業者へアンケートをとった。

写真は、「てのひらサラダトング」

「商品の販売数が増えた・商品PRにつながった、という声のほか、お客様への写真やテキストでの提案が柔らかであたたかく、自社のものづくりの背景も案内してくれた、というように、事業者に寄り添った記事を称賛する声が複数届いていました」と中村さん。

「しかし、もちろん良いご意見だけではありません。事業者へのヒアリングを進め、販売のプロであるスタイルストアにご相談もしながら、事業者にとっても、訪れる人にとってもより良いサイトとなるよう改善、進化していけたらと思っています」

毎月、「スタイルストア」から墨田区へ、売り上げとアクセス数、メールマガジンで紹介した時期などのリポートが提出される。「スタイルストア」の顧客は読むことが好きで、一番反応がいいのが、このメールマガジンだという。

徳島さんは、「スタイルストア」で出店するメリットを次のように語る。

「メールマガジンは毎日出しており、今日のピックアップ商品ということでいくつかの商品を紹介しています。その中に今月の『すみだモダン』のおすすめはこの商品です!と、打ち出すものを決めて商品を掘り起こしています。全事業者を同じように紹介するのは難しいものの、きちんとケアをできるようにしたいと考えているためです。また、事業者のビジネスを考え、売れ行きや反応が鈍い商品については、きちんとサイトでの反応をお伝えし、バイヤーが普段お取り組みさせていただくなかで知り得た関連商品の今現在の売れ筋商品やお客様の声をお届けすることで、商品改良・開発のヒントにしていただいています」

写真は、kaicoの「両手鍋」

中村さんたちがPR方法や商品に悩んでいたとき、「スタイルストア」の運営チームの皆さんが親身にアドバイスをくれたのは大変ありがたかったと振り返る。

事業者にとっても、「スタイルストア」の倉庫に納品すれば顧客とのやりとりや発送までのすべてを運営側にお任せできるという点は大きなメリットで、「つくり手側の販売にかかる作業負担が軽減した」と、喜びの声が多くあった。

写真は、ALMAの「Aroma Pins」

徳島さんは今後について以下のように語る。

「我々としてはこの取り組みをできるだけ長くさせていただきたいと思っています。というのも墨田区の『すみだモダン』にはしっかりとしたコンセプトがあり、事業者の方も誠実にものづくりに取り組んでいらっしゃるので、どういうふうにこの商品の良さを伝えていくべきか、時間をかけて考えていきたいのです。試行錯誤しながらでもきちんと事業者の売り上げに貢献できるようにしたいですね。墨田区との取り組みだけでなく、各事業者にご信頼いただき、商品を増やしていただいて、よりお互いに利益が上がってというポジティブなサイクルを作っていけたらいいなと思っています」

「墨田区との契約では掲載商品数が決まっていますが、日頃から事業者の方とコミュニケーションをとっていただいていることもあり、契約外でも良い商品があれば取り扱ってくれたり、限定のコラボ商品を開発したりと独自の取り組みが広がっているのも良い傾向だと感じています」と、中村さんは手応えを感じているようだ。

「2023年度は掲載頻度を少しをゆっくりにして、一社一社丁寧なフォローアップをしていきたいと考えています。『スタイルストア』とのここでの経験が知見となり、ゆくゆくは事業者の自走につながってもらえたら」

オンラインショップの取り組みは、事業者の未来にとっても貴重な経験となりそうだ。

Text: Masami Watanabe
Photo: Sohei Kabe
Edit: Katsuhiko Nishimaki / Hearst Fujingaho
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