縮小する日本のアパレル製造、その未来を墨田区から
食料自給率(*1)について知っている人は多いが、衣類の自給率まで知っている人はどのくらいいるだろう。日本繊維輸入組合が発表した「日本のアパレル市場と輸入品概況2026年版」によれば、2025年の衣類の国内生産量は25年前の約1/10となり、衣類の輸入浸透率は98.9%(*2)に達したという。
長く続いたデフレの影響による低価格志向もあり、アパレル製品の生産拠点のほとんどは、人件費の安い海外へと移っていった。かつては「日本のお家芸」といわれた繊維産業だが、それを支えてきた数多の国内縫製工場の仕事は激減し、その要を担ってきた職人たちの高齢化も進んでいる。その後を継ぐ人材も不足し、日本のアパレル製造業は厳しい環境に置かれることになった。
*1/農林水産省によると、平成7年度のカロリーベースにおける日本の食料自給率は前年度比-1ポイントの37%。2000年代からはほぼ横ばいを維持している(参照:農林水産省HPより)。
*2/日本繊維輸入組合「衣類の生産と輸出入の推移」2026年版によると、衣類の輸入浸透率が98.9%となっている(参照:WWDより)。
そんな逆境のなか、日本のものづくりを次世代へつなごうと奮闘し、真に価値あるものを追求し続けている企業がここ墨田区にある。1980(昭和55)年創業のアパレル縫製会社、株式会社ズームだ。
現在は2代目代表取締役社長である加々村 征(もと)さんがその舵を取り、ブランド「ICHORA+」を運営している。その奮闘の賜物ともいえるのが、機能性ウェア「curefilo®(キュアフィーロ)シリーズ・Tシャツ」であり、現在、多くの反響を集めている。
そして、この「curefilo®シリーズ・Tシャツ」は、2025年12月に「国産天然植物由来成分による新素材『curefilo®』を使用した機能性ウェアを区内3社で共創する活動」とともに「すみだモダン」に認証された。
「すみだモダン」に認証——区内3社の共創が一枚のTシャツに
認証のポイントは、墨田区の「メリヤスのまち」としてのものづくりの背景を受け継ぎながら、区内3社がそれぞれの専門性を生かしてTシャツをつくり上げている点にある。
この生地は区内2社——墨田区両国にある丸安毛糸株式会社と、同区亀沢にあるフジサキテキスタイル株式会社が生地に仕上げたもの。そこに墨田区緑にあるズームが加わり、糸から生地、そして一着の服へと、区内3社の技術がつながっている。
まず、「curefilo®」という特別な糸は、創業1955年の丸安毛糸株式会社によって開発された。同社は高い専門性を誇るニット素材・製造企画販売会社で、植物由来の成分を繊維内部に練り込むことで完成に至った。
その糸「curefilo®」を生地へと編み上げたのが、ニットをはじめカットソーや布帛(織物)など幅広い商品を企画・製造・販売している、創業1968年の生地専門商社であるフジサキテキスタイル株式会社だ。
そして、そこに墨田区緑に本社を置く株式会社ズームが加わった。素材の特性を見極め、幅広い加工技術を駆使しながら、立体裁断・縫製を最適化することで、「curefilo®シリーズ・Tシャツ」を形にしていった。
このように、区内3社がそれぞれの技術を持ち寄ることで、「curefilo®シリーズ・Tシャツ」が完成したというわけだ。これは“メイドインジャパン”であるとともに、“メイドインすみだ”ともいえる。
「curefilo®」との出会いを振り返る
加々村さんは2021年に、「curefilo®」という名の糸と運命的な出会いを遂げる。所属しているTKF(東京ニットファッション工業組合)の青年部で、丸安毛糸の岡崎 淳さんと話していたときのことだった。
「その頃は、日本のアパレル界では今ほど機能性素材というものが知られていない時期でした。着圧によって筋肉のブレ抑制や血行促進などをサポートする機能性ウェアはありましたが、糸自体に機能を持たせるなんて『革命的だ!』って思いましたね」と、加々村さん。
「仕事やスポーツの疲れを、明日に向けてどれだけ回復できるか? と悩んでいる人は、自分自身も同様に多いのではないかと感じていましたので、『curefilo®』でTシャツをつくったら、きっと多くの人の助けになるはずと直感しました。とはいうものの、それを実現するためには、まず糸を生地にしなくてはなりません。生地にするためには、大きな資金を投入して大量に糸を買い付けなければならないわけです。残念ながら、そこまでの資金力はありませんので、そのときは『どこかで誰か、生地をつくってくれないかな』と願うだけでしたね」
それからしばらくして、生地問屋の担当者から新製品の紹介を受けることに。すると、そこで紹介されたのが、あのとき聞いた『curefilo®』の糸を編み上げた生地だったのだ。加々村さんはそのときの喜びを、興奮気味に振り返る。
「いやもう、すごくうれしかったですね。『あ! curefilo®だ』と思った瞬間、『これ買います!』って即決してしまいました。この先の未来は、生地に付加価値をつけたものがより必要とされるでしょうし……なにより、着るだけで付加価値を生み出せる生地なので、『この素材で、着る人の人生を豊かにできる…』って考えました」
糸から生地へ。3社それぞれの技術がひとつのTシャツにつながる
「通常、生地は既成のバンチブック(生地見本帳)から選んで発注するだけですが、これは想像以上に特殊な生地でした。『curefilo®』を名乗るためには、一着に何%を使用しなければならないという混率など細かな制約がありました。当時は生地が誕生してすぐのころだったのだと思います。そこで使用する生地の条件や、『curefilo®』の名称を使うためのルールを取り決め、フジサキテキスタイルさんと当社で慎重に契約を交わしました」
そうして加々村さんは、念願の生地としての「curefilo®」を手にした。そのときの感動を、今でもはっきりと覚えているという。
「『こんな気持ちいい生地、触ったことがない」って思いました。通常、リカバリーウェアなど機能性ウェアには、乾燥しやすいポリエステルの成分が含まれていることが多いのですが、『curefilo®』の素材は綿とレーヨンという、どちらも自然由来の繊維なのでしっとりしています。しかも、とろけるようになめらかな肌ざわりなんです!」
「curefilo®」とはどのような糸であり、どんな生地なのか?
では、この3社の共創の主軸となった糸「curefilo®」とは、そもそもどのような素材なのだろうか? さらに知りたくなる。
「「curefilo®」は植物由来の成分(*3)を練り込んだ糸で、酸化還元(抗酸化)に関する素材特性について、さまざまな研究・評価(*4)が行われています」と加々村さん。そもそも「活性酸素」とは、私たちがエネルギーをつくり出す過程で発生し、身体にとって一定の役割を果たすもの。しかし、ストレスなどで過剰に発生すると細胞を傷つけ、さまざまな不調につながる可能性があると考えられている。
植物由来の成分とは何かと言えば、「フィトケミカル(ファイトケミカル)」と呼ばれるもので、Phyto(植物)がつくり出すchemical(化学物質)のことを指す。
つまり、植物が紫外線や昆虫などのストレスから身を守るためにつくり出す色素や香り、辛味や苦み、ネバネバといった成分がそれで、たとえば赤ブドウの皮に含まれる「ポリフェノール」や緑茶に含まれる「カテキン」などがその代表格となる。
*3/丸安毛糸HP内の「curefilo®」に関しての実証実験について
*4/ICHORA+公式サイト内のキュアフィーロシリーズ・素材について
植物由来の成分をさらに詳しく言えば…
「curefilo®」に練り込まれているフィトケミカルは、日本各地の契約山野に自生する3種の植物から抽出した、植物由来の成分。ひとつは、古くから和漢薬として親しまれてきた「イタドリ」。もうひとつは草餅などでも馴染み深く、暮らしの中で幅広く重宝されてきた「ヨモギ」、そして保存や生活の知恵として長く活用されてきた「柿の葉」。
これらが練り込まれた「curefilo®」は、抗菌防臭性や保湿・親水性についても研究・評価が行われているという。さらに「唾液アミラーゼ」の測定を用いた研究も行われており、着用時の心地よさや快適性を追求したウェアとして紹介されている。
その糸を生地に編み上げることで、なめらかで肌ざわりのよい生地が生まれる。さらに、仕上げを担うズームが生地の特性を生かして裁断・縫製し、着用時の快適性を追求した一着へと仕立てていく。
※「curefilo®」に関してさらに詳しく知りたい方は、こちらへ
糸から生地へ——3社それぞれの技術がTシャツという一着に
それでは、加々村さん率いるズームの役割をさらに詳しく見ていこう。
取材を進めるなかで強く印象に残ったのが、カットソーや布帛など幅広いアイテムに対応する、同社の服づくりの懐の深さだ。どんな課題にも諦めることなく真っ向から取り組み、一つひとつを形にしてきた経験が確かな知識と勘となって、現在のズームのものづくりを支えているように感じられた。
全体像から細部まで、総合的にバランスを把握しながらこだわり抜く熟練スタッフたちがチームメイト。その一人ひとりの技術力と責任感によって、多くのアパレルブランドからも信頼され、OEMを中心にアパレル業界を走り続けてきた。
「curefilo®シリーズ・Tシャツ」には、そんなズームの持てる知見と技が惜しみなく注ぎ込まれている。とろけるような肌ざわりを感じてもらうために、Tシャツというシンプルなアイテムに立体縫製という仕立て技術を採用。これにより、着用時に生地がやわらかくボディにフィット。もちろん、各パーツへの細やかな配慮も素晴らしく、衿ぐりの仕様や縫い目の美しい仕上げに、ズームの丁寧な仕事への心意気が光っている。
さらに特徴的なのが、縫製後にあえて水洗いを行う「製品洗い加工」だ。一般に衣類は洗濯によって生地が縮むことがあるが、ズームでは完成品をあらかじめ洗い、生地を馴染ませた状態で販売している。購入後に「洗ったらサイズが小さくなった」というストレスを感じさせることなく、本来のシルエットを長く保ったまま着用できるよう工夫が凝らされているのだ。
加々村さんは斜め45度を見上げ、何かを再確認するかのように続けて語った。
「それぞれの生地には、それぞれクセというものがあります。その特徴を考慮しながら、縦横で違う縮率を計算して縫い上げていかなければなりません。この縮率を計算することは、とても難しいものです。そこには熟練した職人の勘も必須です。弊社の場合は40年間かけて蓄積してきた経験と、それを具体化したデータもありますので」
そして視線を下げて、こう続ける。
「だからこそ、チャレンジできましたし、満足できる結果にたどり着けたと思っています。もちろん手間はかかります。ですが、この作業のおかげで、洗濯後も購入時のサイズ感やシルエットが崩れにくく、快適に着用できるよう仕立てることができたと自負しております」
薬剤師から縫製の世界へ。加々村さんがICHORA+に込めた志
学生時代は「化学」の授業が大好きで、人の助けになることがしたいと考えていた加々村さんの最初の仕事は薬剤師だった。そして時が経ち、父の仕事を継ぎたいとアパレル製造業に飛び込み、ズームで働くことになった加々村さんにとって、「curefilo®」との出会いはまさに運命的なものだった。
「それは、薬剤師から洋服の世界へ飛び込んだ、私にしかできないことは何だろう? 服の力で人の健康や、より良い生活に貢献することができたら……と、自問していたときにたどり着いた答えのようでしたね」
ズームでは、先代社長である父・義廣さんの時代から自社ブランドの展開に挑戦してきたものの、長く定着させることは難しかったという。そうした父の挑戦と苦労を知りながらも、加々村さんは縫製業界への強い危機感を胸に、改めてオリジナルブランドの立ち上げを決意した。そして「父には迷惑をかけたくない」という思いから、「会社とは別で、自分のオリジナルブランドを始めたい」と父に相談したところ、義廣さんは「お前がやるなら、それは会社の決定だ」と快諾し、全面的にバックアップしてくれたという。
こうして2012年に、ICHORA+の前身となる「ICHORA」というブランドが誕生した。ズームの確かな技術で丁寧につくり上げたアイテムは、実店舗を構えて販売されることに。しかし2019年、「今後の工場不足に対応していくためには、社としてOEMに全集中すべき」との判断から、ブランド事業はいったん休止という決断に至っていた。
「努力を惜しまない」姿勢から生まれた一着
そして時を経て、加々村さんは新作として誕生した「curefilo®シリーズ・Tシャツ」を、自らの志を込めてはじめた「ICHORA」の派生形として世に送り出すことを決める。その名も「ICHORA+」、上質な一着に素材や仕立ての特徴をプラスしているからだ。
この不屈ともいえるチャレンジ精神は、どこから来るのだろう。そう尋ねると、加々村さんは「高校から大学にかけては、部活動でアメリカンフットボールに打ち込んでいました。このスポーツはフィールド上の格闘技といわれています。社会人になってからは怪我のリスクを考えて競技から離れていたのですが、それでも身体を動かしたくて空手を始め、そこで格闘技の魅力に目覚めたんです」
なるほど、そんな加々村さんの不屈の探求心とチャレンジ精神、そしてチームワークを大切にしているところは、アメリカンフットボールに由来するのかもしれない。そこには、米カレッジフットボール界の巨星として名高い故ルー・ホルツ氏(監督としてノートルダム大を全米王者に導いた名将)の名言「努力をせずに良い結果が出ることなどない」「汗で溺れた者はいない」などが心に刻まれているのだろう。
そんな気概とともに飽くなき研究と挑戦を続け、これまで得た数々の知見を工夫として具現化。ズームのすべてを注ぎ込み、2024年3月15日にICHORA+の「curefilo®シリーズ・Tシャツ」が発売された。
そして志に、「選ばれる日本製」という覚悟が加わる
「とはいえ、最初のうちはなかなか販売することすら難しかったですね。大手の百貨店や大型ライフスタイルストアに置いてもらっても、反応はいまひとつでした」
そんな状況を打破するきっかけとなったのが、SNSによる自己発信だった。加々村さんは以前から自社サイトのブログのほか、YouTubeやSNSでも情報を発信してきた。とりわけ力を入れてきたのが、X(もと@国内縫製工場(株)ズーム)だ。
「Xのアカウント自体は2010年からありましたが、あまり活用していませんでした。でも、2024年ごろからですかね…業界の状況も悪化してきて、いよいよどうにかしなきゃいけないという思いから、365日、1日も休まずに『縫製工場あるある』というつぶやきをポストしはじめたのです。縦長の画像をつくって毎日投稿を続けていると、少しずつ反応がもらえるようになっていきました。同業の人たちとつながったり、他の業界の人たちにも見てもらえるようになったりと、だんだんとご縁も広がっていきました」
そして2026年5月のある日、転機が訪れた。
きっかけは岡山で縫製工場を営む笏本(しゃくもと)達宏さんから加々村さんのXに届いた、一通のDM(ダイレクトメッセージ)。その内容は、笏本さんが発起人となっている販売プロジェクト「日本製の覚悟店」に一緒に参加しないか、というオファーだった。メンバーは全国16社の小さなものづくり事業者たち。参加事業者全員が一丸となって宣伝し、準備し、当日の販売までを担当するというもの。
「笏本さんの、『たとえ技術を磨き、良いものをつくっていたとしても、知ってもらえなければ選ばれない。だからこそ、それぞれが自分たちの言葉で発信し、届け、伝えることにも向き合っていく。守られる日本製ではなく、選ばれに行く日本製がテーマ』という考え方に大いに賛同し、参加させてもらうことになりました」と、加々村さんは一段と熱を込めて語った。
ここから、イベントに向けて加々村さんのものづくりに対する熱い想いをつぶやく日々が始まった。
「その想いは日本製を応援したい人や、本当に良いものを探している人など、多くの人に届きました。Xを通じて『curefilo®シリーズ・Tシャツ』を購入してくださった70歳代の奥さまから、『着用して、その素晴らしさに驚きました。このTシャツと出会うことができ、幸せを感じております。この素晴らしい製品をもっと多くの人に知っていただきたく、知人への贈り物といたしました』という、とても喜ばしいメールをいただくこともありましたね…」
こうして開催された「日本製の覚悟店」は、2026年7月3日と4日の2日間、東京・有楽町の東京交通会館で大盛況のうちに幕を閉じた。売り場に立つつくり手たちから直接商品の説明を聞くことができ、実際に商品を触って確かめられることもあって、イベントには多くの人々が詰めかけた。2日間の来場者は、延べおよそ3000人にのぼったという。
さらに、イベントをきっかけに加々村さんのつぶやきは大きな反響を呼び、なんと一晩で約1万人、翌日までに約2万人ものフォロワーが増えたこともあったという。
加々村さんは、ICHORA+の「curefilo®シリーズ・Tシャツ」とICHORAの復刻版ポケットTシャツ、コーヒー染めのTシャツとダブルガーゼのハンカチ、和紙と綿のTシャツといった自信作をそろえてこのイベントに臨んだ。
「Xで応援してくれる人は少なくないものの、実際に足を運ぶとなると事情は変わってくるだろうと予想していました。果たして、この2日間にどれだけの人が来てくれるか? 想像もできず手探りで在庫をそろえ、準備を進めていきました。そうして迎えたイベント当日、そこには今まで私が見たことのない景色が広がっていました」と、イベントを振り返る加々村さん。
「想像を超える反響で、用意した商品は早々に売り切れていきました。買えなかったお客様から『買いたかったのに……でも、本当に良かった。たくさん売れたんだね』と、ご自身が買えなかったことよりも私たち出店者の未来に安堵してくれる方もおり、ものづくりとSNSの可能性を心から感じた2日間になりました」
イベント終了後には多くの来場者から、「こんなイベントを待っていた、またやってほしい!」といった好意的な感想が相次いだ。この体験から加々村さんが感じたのは、「自分たちがつくるものの価値を、自分たちの言葉で届けることの大切さ」だったという。
そして現在、2026年12月11日(金)・12日(土)の2日間、大阪にて第2回「日本製の覚悟店」が開催される運びとなっている(会場は現在調整中)。
「背景も価値として届ける」——ズームが目指すもの
「『すみだモダン』では、商品の背景にあるストーリーを伝えることを大切にされていますよね。私も本当にその通りだと思っています。これからの時代はプロセスエコノミーの領域、つまり『背景も価値として届けること』が欠かせません。弊社でいえば、秋田県大館市にある縫製工場の全スタッフとともに、ズームというチームが一丸となって力を発揮すること。そして、スタッフ一人ひとりがチームの志に共鳴し、生み出せる最大限の価値をしっかり伝えていくこと。それができれば、必ずお客様に選ばれる一枚になると思っています。そういった考えに至ったのも、『すみだモダン』に認証していただいたおかげです。私たちにとって、本当に大きなきっかけになりました!」
ICHORA+の拡大を考えるなら、今後はシルエットやディテールを変えたり、たとえばロングTシャツなどをつくったりとアイテムを増やしてさらなる成長を推し進める方法もある。しかし、加々村さんは現状、新しい商品を増やすだけではなく、商品の背景や素材、仕立てにある価値をさらに深く伝えていくこうとしている。
「ICHORA+の価値をさらにプッシュしていく方針は、薬剤師(医療人)と縫製屋(衣料人)という2つの職業を経験している自分にできることとは何か、と考え抜いた結果生まれたものです。ICHORA+を通して、皆さんにより上質な日常を届け、笑顔になっていただきたいので…」
そう語る加々村さんの視線は、自社の枠を超えて業界全体にも向けられている。日本のアパレル製造業を取り巻く厳しい環境のなかで、「自分たちのこの活動を、業界の未来への希望につなげていきたいんです」と力を込めた。
さらに加々村さんは熱いまなざしとともに、こうも語る。
「国内の縫製工場が生き残るための手段の一つとして、オリジナルブランドの販売があると思います。国内ではこの先、そう簡単には新たな縫製工場が誕生しないでしょう。だからこそ弊社のような、経験・実績も豊富ながら寡黙なまま現代に生き残ってきた古参が、先ほど言ったように今まで積み上げてきたものの背景を広く世に公開していって、それを価値あるものだと感じ取っていただける機会を提供することが大切だと考えています」
そんな加々村さんの口調は、さらに熱を帯びていく。
「笏本さんの言葉じゃないですが、“積極的に手に取ってもらえるような価値づくり・背景づくり・ものづくり”をしていきたいです。これからの国内縫製工場がやるべきことのひとつの解答例に、弊社がなっていければいいと…。『ズームがここまでできているのだから、自分たちにもできる!』と感じてもらえるよう、頑張っていけたらと思っています」
熱を帯びた言葉の端々には、一企業の枠を超え、国内縫製業全体の未来を自ら切り拓いていこうとする覚悟がにじんでいた。
一枚のTシャツから、墨田のものづくりの未来へ
「すみだモダン」への認証はまさに、ズームにとって自分たちが積み上げてきた技術やものづくりの背景を改めて力強く世に伝える絶好の機会となったはずだ。そして、自らの志をあらためて見つめ直し、さらなる進化へとつなげるきっかけにもなった。
「これからの商品は、背景も価値として販売しなくてはいけません。自分たちが一番得意とすること、自分たちがつくり出す最大限の価値をしっかり伝えていくことができれば、選ばれる一枚にはなるはずです」と、最後に自らに言い聞かせるように述べる加々村さんだった。
国内の縫製工場が厳しい環境に置かれるなか、ズームが目指すのは技術と背景を価値として伝え、積極的に選ばれるものづくりだ。その先にあるのは、墨田区で培われてきた技術を次代へつなぐこと。区内3社の共創から生まれた一枚のTシャツは、素材をつくる技術、生地にする技術、そして服に仕立てる技術をつなぎながら、すみだのものづくりが次代へ受け継がれていく可能性を力強く示している。
(縫製工場)秋田県大館市川口字隼人岱108-20
TEL: (本社)03-6427-6648
HP: https://zoomproject.co.jp/
SHOP: https://ichora-plus.jp/collections/ichora-plus
X: https://x.com/houseiya_moto
Photo: Sohei Kabe / KAKERA Inc.
Edit: Kazushige Ogawa / Hearst Fujingaho