originality
独自性

「すみだモダン」がモチベーションのきっかけに――サクラワクス

2024.10.25
スタイリッシュな高級皮革を扱う革小物メーカー「サクラワクス」は、2010年「すみだモダンブランド認証事業」開始時から、「すみだモダン」がリニューアルした現在までに、4度の認証を受けている。独創的な商品を生み出しているのは職人であり、代表の和久真弓さんだ。今も次々と浮かぶアイデアにワクワクしていると話す和久さんの、エネルギーの源はどこにあるのだろう。

高級皮革製品を扱う工房からスタート

家業の60年余の歴史をもつ「サクラワクス」は、スカイツリーのお膝元であり、ものづくりの盛んな墨田区業平の一角にある。ショールームには、西洋の工房で見かけるような昔ながらのハンマーや裁断機がディスプレイされ、ノスタルジックな雰囲気だ。壁に取り付けられた木製の棚には、さまざまな革小物が並べられている。正面の陳列棚の向こうが事務所、上の階は工房という作りだ。

サクラワクスの商品は、長く愛用してほしいという想いから、シンプルで飽きのこないデザインを基本としている。それでいて、ひと目でこの工房のものとわかるこだわりも感じられる。上質な素材を用いて、職人による丁寧な仕事が細部にまで施されているため、どれもなめらかな感触で心地よく手に馴染むのだ。

「親の代から始まった工房には、子どもの頃は職人さんが6人くらい住み込みでいました。高度経済成長期の波に乗って、家族も職人さんも、それこそ寝る間を惜しむくらい働いていました」と、当時を懐かしむように話すのは、代表の和久真弓さんだ。

クロコダイルやオーストリッチ(ダチョウの革)のような最高級の革素材をメインに扱っていたこともあり、技術力の高い職人が在籍しているのが強みだ。

「クロコダイルの革は、厚みがまちまちなので、薄く漉く(すく)ことがとても難しい。漉きすぎてしまうと破れてしまうし。手の感覚での技なので、熟練した職人しか扱えないのです。原皮自体も高額なので、選定や仕立てにも相当こだわっていますよ」

会社勤めから鞄のデザイナーへ

サクラワクスの代表、和久真弓さん。

そんな和久さんだが、実は子どもの頃、この仕事が嫌いだったという。

「もう革がいっぱい散乱しているし、親の姿といったら働いている後ろ姿しか見ていなくて、今みたいに公園に連れて行ってもらったこともなかったですから」

大学を卒業すると、その言葉どおり革とは無縁の商社に就職した。ところが1年ほど経った頃、物足りなさを感じた和久さんは、勤めを続けながら好きだったデザインを学ぶため、夜間の専門学校に通いはじめた。

「そこでテキスタイルや鞄のデザインを学んだんです。その後、青山にあったイタリア製品を中心とした革問屋に転職もしました。メンズやレディスのバッグや財布など、幅広くデザインをしていました。当時は鞄のデザイナーっていうのがいなかったから重宝されました。私は仕立ての工程も全部知っているから、どのように裁断したら革が無駄なく使えるかまでわかっていたので。オリジナルバッグの場合は私のデザインをイタリアにFAXし、現地で作ってもらっていました。それをMade in Italyとして百貨店に卸していたんです」

当時はバブルの全盛期。和久さんデザインの商品は次々とヒットを飛ばした。会社は営業活動の一環として、そうした商品をテレビのトレンディドラマの衣装協力として提供していたという。

日本製にこだわった商品を作るために起業

「ところが」と和久さんは話を続ける。

「出来上がってきた商品があまりにも上手ではなかったのと、金具がちょっと壊れやすかったんです。それで、やっぱり日本製っていうのはいいんだなって実感しました。日本人が作るものっていうのは繊細で、結構考えて作っているということをすごく感じて。やるんだったら日本製だなという思いが強くなっていきました」

バリバリ仕事をしていた和久さんだが、結婚を機にキッパリと仕事を辞めた。実家の仕事を少しずつ手伝い始めたのは、退職から10年近くがたち、3人の子育てが落ち着いてきた頃のことだ。

「あんなに嫌だったのに不思議ですよね。こだわればこだわるほど奥が深いということがすごく分かってしまったというのと、世の中にないものを作る楽しさが、自分の中で芽生えてしまったんでしょうね」

2008年、和久さんは会社を立ち上げた。ちょうど墨田区がスカイツリー開業にあわせて、すみだのブランド価値を上げる「すみだ地域ブランド戦略推進検討委員会」を発足させた頃のことだ。

2009年に入り、墨田区は「すみだ地域ブランド戦略」活動の一環として「ものづくりコラボレーション」事業の募集を大々的に告知。この事業は、デザイナーとのコラボレーションで粋で洒脱な「感性価値商品」や飽きがこない「ロングライフ商品」、子ども目線で作る「キッズデザイン商品」という3つのテーマに沿ってアピール力の強いブランドを開発し、統一的な販売・プロモーションにつなげる、というものだった。和久さんは早速これに応募をする。

プロダクトデザイナーとの出会いで得た気づき

「あれで大勢の人とつながることができました。そのとき初めてプロダクトデザイナーという人たちのことを知ったんです。自分はファッション系のデザインしか知らなかったから、椅子やテーブルなどをデザインしているプロダクトデザイナーの仕事をみて、革って雑貨系だけではないんだ、インテリアとか幅広い用途があるんだと気づいたんです。デザイナーの日原佐知夫氏率いるSOON JAPAN DESIGN PROJECTさんとのプロジェクトは3〜4年続いたのではないでしょうか。デザイナーさんと飲みに行って、新しいものを企画して、私が一生懸命売り込むというようなことをたくさんやりましたよ。今も墨田区ではデザイナーさんとのコラボレーション事業をやっていますが、ああいったプロジェクトの走りでしたね」

和久さんは「とても斬新な体験だった」と、懐かしそうに当時を振り返った。そこからの和久さんの快進撃は止まらない。

「本格的に仕事に復帰してからはもう、ガンガンやりましたよ。Amazonでの通販に、東京スカイツリーとのコラボ。地場産業の豚革を使ったキーホルダーはもう本当に売ったと思います。箱もシールも全部墨田区で作るんです。みんながWINWINになるように。『オールメイドインすみだ』ですよ」

和久さんのすごいところは、それをすべて自身が営業して進めてきたということだ。「そうしたら今度は大企業からもコラボレーションのお話が来るようになったんです。ノベルティのOEMですね」

評判は評判をよび、今では海外の高級ブランドや自動車メーカーからの注文も少なくないという。

「革のデザインだけでなく、ロゴの位置や箱の大きさなどすべてをデザインできるという強みがありますね。きちっとした提案書を出せるし、最近ではSDGsに気を配るところも多いですから、使用する革の証明書も出せます。染めからこだわってオリジナルでやっているからこその強みでしょうか」

ちなみに和久さんが使用する革のトレーサビリティを意識しはじめたのは2008年のことだという。早くから革製品も自分たちがいただいた命の副産物を使おうという意識をもってストーリー性を確立してきた。

「サクラワクス」と「すみだモダン」

「サクラワクス」は過去4回、「すみだモダン」のブランド認証を受けているが、ひとつとして同じようなものはなく、それぞれが特徴的な個性を放っている。

すみだモダン2010ブランド認証商品「北斎シリーズ」。葛飾北斎の絵をなめらかで軽いすみだ産ピッグスキンに色鮮やかに再現したステーショナリー。天然成分でなめし、排水・廃棄物も環境に配慮して処理している。

すみだモダン2012ブランド認証商品「革うちわ」。サクラワクス独自の革漉きの技術で、コシと艶がある高級牛本革を紙のように極薄に漉き、うちわに貼りあわせたスタイリッシュな商品。海外ではNYのミュージアムショップでも採用されてガマグチと一緒に販売した。

すみだモダン2016ブランド認証商品「TOKYO GA-MA」。ガマグチは、ワンクリックで開閉できる機能性の高い金具。この機能に再注目し、小銭入れだけでなくパソコン、タブレットケースや書類ケースにもガマグチを使用することで、新しいスタイルの革小物を誕生させた。

すみだモダン2022 認証活動「山野の恵を有効資源化し、自然環境に配慮した革の手入れ用品を製造する活動」/認証商品「Leather-shampoo(柚子の香り、フローラル石鹸の香り)」。害獣として駆除されたエゾ鹿の革や油脂の活用事例として一定の新規性が認められ、革や油脂を扱う事業者同士の連携事業という、墨田区ならではの事例も評価された。

「Leather-shampoo」ができるまで

和久さんに4回目の「すみだモダン」の認証をとった「Leather-shampoo(以下レザーシャンプー)」の開発秘話をうかがった。

「きっかけはコロナ禍の生活でした。この頃は皆さん除菌に気を使って、テーブルやいろいろなものを拭いていましたよね。外出しないで家に籠っていたときに、革も綺麗にできないかなと考えたんです。靴のクリームとかは、どうしても臭いがきついけれど、いい香りがすれば掃除をしていても楽しいし、今はレザーのスニーカーなどもあるわけだから、洗うように汚れが落とせたらいいなと思って」

「自宅の近所が『谷口化学工業所(レザーケア製品の老舗)』さんなんです。谷口さんの会社前を通るたびに『何か一緒にやりたい』という気持ちがずっとありました。私が元々柚子の香りが好きだったというのもあって、まずは柚子の香りのものを作りたいとお話ししました。また、海外への販売も視野に入れていたので、早速、英訳の入った海外向けバージョンのラベルやカタログを作ることにしました。スニーカーや革小物だけではなく、インテリアのソファーや車の革のシートなど、いろいろな革製品に使えるようにしました。そうすれば販路も広がります。もちろんアウターにも使えるとなればアパレルにも販路ができますから」と和久さん。

このレザーシャンプーには害獣駆除された北海道のエゾ鹿のオイルが配合されている。SDGsに特化した商品として開発した理由について尋ねると、次のような答えが返ってきた。

「もともと業界には『北海道のエゾ鹿がいっぱいいるので使ってほしい』という依頼が来ていました。それこそ『すみだモダン』がスタートした時期くらいから。ですが、鉄砲で撃たれた皮というのは穴だらけなんですよ。穴があいていると皮の取り都合が悪く活用しにくい。また、鹿皮は重くて柔らかいので仕立てにくい部分があります。あれこれ思案するうち、オイルだったらいいのではないかと思い至りました。その話を谷口さんにすると、『実はうちも使っているんです』と。それですんなり使用が決まりました。このシャンプーは、泡立ちがとてもいいんですよ」

墨田区で認証をとることのメリット

レザーシャンプーを実際に使ってみると、本当にシャンプーしたときのようにふわふわの泡が出てきた。白い革のスニーカーに数回プッシュし、付属のブラシでブラッシングするように泡と革を馴染ませる。その後、柔らかい布で拭き取ると、汚れはしっかり落ち、白い輝きを取り戻していた! 作業中は優しい柚子の香りがあたりにただよい心地よい。手入れをしながら癒やされる時間を持てることが、とても有意義に感じた。

パッケージの裏面には、英字での表記も。海外への販路を想定して、準備を進めてきた。

「『今までになかった、革全般に使えるレザーシャンプー』とうたって展示会に出展したんですが、まず見にきたのは何社もの大手企業の研究チームでした。匂いやラベル、パンフレットなどのデザインも一生懸命選定してやってきたのに、真似されてしまうのかと」

「『レザーシャンプー』は商標登録を取得済みですがコピーしようと思えばできてしまいそうなので、難しいですね……とはいえ、これを『すみだモダン』で認証してもらえたことはとても良かったと思っています! 墨田区に応援してもらえている安心感があります」

墨田区の他の事業者と力を合わせて未来へ

2022年度の新生すみだモダンへ応募した理由のひとつは、今までいくつか認証をもらってきた「すみだモダン」が再開したことを知り、さらなるチャレンジがしたいと思ったからだという。和久さんによれば「『すみだモダン』はモチベーションのきっかけ」だという。

「そうだこれがあるじゃん!と。また新しいものを考えよう、となるんです。やっぱり、今まで誰も作ったことのないものを作りたいじゃないですか。『すみだモダン』にはプロジェクトのバックアップをしてもらっていると思っているので、周りの企業と意見交換もしたいし、交流も深まると思っています。ものづくりというのは、ただ作っているだけでは前にも進まないし宣伝もできません。だからこそ、こういう形のバックアップってすごく大事ですし、本当にありがたいなと思います」


「小さい会社は1社でアピールするよりも団体でアピールした方が効果絶大だし、みなさんにも見てもらえるなと思ったんですよね。異業種同士なら販路先もシェアできると思い、展示会や物販催事など数多く出展してきました」

他の事業者との団体連携は和久さんが2011年に立ち上げた『すみだ東京ものづくり計画(STMK)』で、13年間も長く活動してきたことだ。

2022年12月に東京・立川で行った墨田区主催のポップアップイベントに参加した和久さん(写真左)。石宏製作所の石田明雄さん、アトリエ創藝館の大石智博さん、宇野刷毛ブラシ製作所の宇野三千代さん、昌栄工業の昌林賢一さん、笠原スプリング製作所の笠原克之さんなど、墨田区の多くのものづくり事業者と一緒に活動を進めている。

「私が会長を務めるSTMKも、こういった気持ちから立ち上げたものです。今、『オレンジトーキョー』さんが『Orange Marche』を、墨田区の家業の若き後継者さんたちが『継創(ツギヅクリ)』などを立ち上げていますよね。各グループの活動を見ていると、自分たちが上海や京都、大阪、福岡などに行ったことを思い出します。昔、自分がやってきたことと同じように、活発に活動している姿は、とても頼もしいです。いずれはそれぞれのグループ同士、連携することができたらいいなと思っているんですよ。自分の子世代にもやっぱりみんなと一緒につないでどんどんやってもらいたいなと思います」。和久さんは笑顔で次の世代へのエールを送った。

Company Data
株式会社サクラワクスSAKURAWAQS
ADDRESS: 東京都墨田区業平1-7-12
TEL: 03-3625-6907
HP: http://leather-handmade.com/
Text: Masami Watanabe
Photo: Sohei Kabe
Edit: Katsuhiko Nishimaki / Hearst Fujingaho
このページをシェアする

CITY WALK

RECOMMENDS

ONLINE STORE

STYLE STORE × すみだモダン

オンラインストアで購入できる
「すみだモダン」のアイテム

SPECIAL BOOK

すみだモダン

手仕事から宇宙開発まで、
"最先端の下町"のつくり方。

このページをシェアする